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Aromas〜アロマス〜
香りで綴る、スペインのワインとガストロノミー

熱波に揺れるスペイン 相次ぐ山火事、ワイン産地への影響は?

熱波に揺れるスペイン 相次ぐ山火事、ワイン産地への影響は?

スペインの山火事について、日本の多くの方から温かいお見舞いのメッセージをいただいています。本当にありがとうございます。私が醸造に携わるワイン産地・プリオラートのエルモラール村からも、バレンシア州カステリョン県で発生している山火事の煙が遠くに見えました。現在も、その影響でしょうか、空はうっすらとかすんで見えます。連日35℃を超える厳しい暑さが続いています。

7月31日午前9時現在、スペインでは46件の山火事が確認され、各地で消火活動が続いています(出典:Incendios Forestales en España en Tiempo Real)。

「現地はどのような状況ですか」というご質問を多くいただきました。今回は、スペイン各地のワイン生産者や専門家への取材をもとに、ワイン産地の現状をお伝えします。

近年最大級の森林火災、その背景


城壁に囲まれた世界遺産・アビラ旧市街を望む


2026年は、スペインの森林火災にとって極めて深刻な年となっています。年初から現在までの焼失面積は20万ヘクタールを超え、前年同期の約6倍に達しました。各地で近年最大級の森林火災が相次ぎ、スペイン全土が厳しい状況に置かれています。

特に被害が大きいのは、カスティーリャ・イ・レオン州 アビラ県(約5万ha)、マドリード州(約3万ha)、カスティーリャ・イ・レオン州サモラ県(約1.1万ha)、バレンシア州カステリョン県(約1万ha)などです。

現在もスペインは熱波の最中にあり、南部や内陸部では最高42℃に達する予報が出ています。強風も予想されており、火災の拡大や再燃への警戒が続いています。

しかし、多くの生産者が口をそろえて言うのは、「原因は暑さだけではない」ということです。


「耕すことは、守ること」 
山林の手入れが火災を防ぐ


古木のテンプラニーリョの畑を歩くエリアス氏



カスティーリャ・ラ・マンチャ州で、気候変動に対応したワインプロジェクト「ULTERIOR(ウルテリオール)」を手がける醸造家、エリアス・ロペス・モンテロ氏はこう語ります。

「山林はいま、冬の間の手入れが十分に行われず、荒れたまま放置されています。自然をそのまま残すことが環境保護だという考え方と、火災を防ぐために適切な管理を行う必要性との間に、認識のずれが生じています。

燃えやすい下草や枯れ木を取り除くことは、自然を壊すことではなく、森を守るための管理です。火災が起きてから多額の費用を投じるのではなく、火を大きくさせないための予防にもっと力を入れるべきです。現在の気候では、これまでのやり方では対応できません。

私たちのトメジョーソ周辺は高原台地で森林が少ないため、幸い大きな被害は免れていますが、昨年火災が発生したルイデラ湖群のように、緑豊かな地域は常に危険と隣り合わせです。今年無事だったからといって、来年も同じとは限りません。

この問題はスペインだけではなく、フランスをはじめヨーロッパ全体が向き合うべき課題です。」


地中海性気候の「30-30-30の法則」と
ワイン産地への影響


スペインや中南米でソムリエ育成を牽引してきたフアン・ムニョス氏


スペインや南米で40年以上ソムリエ教育に携わり、ワインや食文化に関する著書も多いソムリエ、フアン・ムニョス氏は、地中海性気候特有の火災の特徴を教えてくれました。

スペインでは「30-30-30の法則」がよく知られています。

・気温30℃以上
・風速30km/h以上
・湿度30%未満

この3つの条件が重なると、火災は急速に拡大しやすくなります。今年はこれに何度もの熱波が重なり、落雷や人為的なミス、小さな火種が大規模火災へと発展しています。

スペインは世界有数の森林消防システムを持つ国ですが、45〜46℃という異常な高温では消火活動にも限界があります。フアン氏は、森林消防への投資不足を課題として挙げ、「最終的には軍の緊急事態派遣部隊(UME)の支援を受けざるを得ない地域もある」と指摘します。

一方で、意外にもブドウ畑やオリーブ畑、灌漑された果樹園は天然の防火帯として機能します。

実際、スペインで近年最大級の森林火災となったグレドス山脈では、コマンドGのフェルナンド・ガルシア氏や、テルモ・ロドリゲス氏が手がける「ペガソ」の畑が、周囲の植生を適切に管理していたことで、防火帯の役割を果たし、延焼の抑制につながったといわれています。

一方で、森林火災はブドウ畑にもさまざまな影響を及ぼす可能性があります。

一つ目のリスクは、極端な高温による果実へのダメージです。ラ・マンチャ地方では、このような状態を「アスラーダ(Asurada)」と呼ぶことがあります。ブドウが熱によって傷み、成熟が急激に進むことで、予定より早い収穫を余儀なくされ、ワインの品質にも大きな影響を及ぼします。

もう一つが「スモーク・テイント(Smoke Taint)」です。山火事の煙に含まれる成分がブドウに吸収され、発酵や熟成の過程で燻製や灰、焦げたような香りや風味としてワインに現れる現象です。近年、オーストラリアやアメリカをはじめ世界各地のワイン産地で研究が進められており、山火事が頻発する現在、ワイン産業における重要な課題の一つとなっています。


気候変動だけでは語れない課題


山林に囲まれたエルモラール村。プリオラート


今回、多くの生産者や農業関係者に共通していたのは、「気候変動だけが原因ではない」という認識でした。山林管理の不足、耕作放棄地の増加、高齢化による担い手不足―。長年積み重なってきた課題が、熱波によって一気に表面化しています。

ワイン産地では、耐暑性品種への転換や栽培方法の見直しなど、気候変動への適応が進められています。しかし、それと同じくらい重要なのが、森林を健全な状態で維持することです。

畑を耕すことは、土地を守ること」。

今回の取材を通して、この言葉は山林にも当てはまるのだと改めて感じました。自然を守ることは、ただ人の手を入れないことではなく、未来へ受け継ぐために適切な管理と手入れを続けること。その大切さを、今年のスペインの山火事は改めて問いかけているように思います。

一方で、それは現場の努力だけで解決できる問題ではありません。森林管理や防火対策には、国や州政府による継続的な支援と、長期的な政策が不可欠です。山火事を温暖化による「自然災害」として捉えるだけではなく、その被害をどう未然に防ぎ、自然と共生していくのか。森林管理のあり方を含め、国を挙げた議論と継続的な取り組みが求められています。

今回の山火事で被害に遭われた皆様に心よりお見舞い申し上げます。そして、一日も早い鎮火と復旧、そして豊かな自然が未来へ受け継がれていくことを心より願っています。



主なインタビュー協力者


Elias López Montero

Elias Lopez Montero エリアス・ロペス・モンテロ
VERUM 醸造責任者

マドリード、リオハでワイン醸造を学び、地元トメジョーソでキャリアをスタート。2002年、リベラ・デル・デュエロのAALTO、2004年には南アフリカで研鑽を積む。2005年にトメジョーソへ戻り、家族と共にボデガス・ヴェルムを設立。20代でオーナー醸造責任者に就任。2007年には「ウルテリオール」プロジェクトを開始し、ラ・マンチャの絶滅危惧品種の復活に取り組む。夏はスペイン、冬はアルゼンチンやチリで醸造に携わる。英国『Decanter』(2018年3月号)の「スペインワインの未来を築く若き醸造家10人」に選出。2021年にはGAGGENAU「Respected by GAGGENAU」で世界最優秀ブドウ栽培家に選ばれた。
@eliaslopezmontero


Juan Muñoz

Juan Muñoz フアン・ムニョス
Sommelier

ワイン、飲料、グルメ食材の国際的な権威。スペイン、ラテンアメリカにソムリエ協会を設立し、各国の名門大学で教育に携わる。現在、アカデミー・オブ・サムリエ(ASMSE)会長兼、El Corte Inglésの専門学院で教鞭をとる。14冊の専門書を発表し、「フランス農事功労賞」を授与されたスペイン唯一のソムリエ。カタルーニャ最優秀ソムリエ(1987年)、スペイン最優秀ソムリエ(1993年)、欧州最優秀ワイン・美食コミュニケーター(2007年)など受賞歴多数。Spanish Lifestyle連載中
@juanmunozramos


参考資料
・Incendios Forestales en España en Tiempo Real
・Spanish Wine Lovers「Incertidumbre en Gredos ante el mayor incendio forestal de España」


Ikumi Harada

Ikumi Harada 原田郁美
Journalist & Creative Director

スペインワインとガストロノミーを専門とするジャーナリスト。広告代理店でデザイナーとして経験を積み、クリエイティブな視点と戦略的思考を身につける。2005年のスペイン留学を機にワインと食文化に魅了され、以来その研究と発信に力を注いでいる。2009年から日本およびアジア市場におけるスペインワインの輸出・プロモーションに携わり、2011年「スペインワインと食協会」を設立し普及と市場発展に努めている。2012年よりプリオラートでワイン造りに取り組み、2024年に自らの初ヴィンテージを発表。2025年からバルセロナの国際ワインコンクール「Barcelona Wine Test」の運営メンバーとして活動。WSET® Level 3、Spanish Wine Specialist(ICEX認定)。山口県出身。
@ikumiharada