by IkumiHarada
【テネリフェ島レポート】火山性土壌がもたらす香り—ビニャティゴの視点
日本を代表する若きソムリエ、コンラッド東京 エグゼクティヴソムリエの森本美雪さん、そしてレカングループ総支配人兼エグゼクティヴソムリエの近藤佑哉さん。お二人がカナリア諸島・テネリフェ島の実力派ワイナリー「ビニャティゴ(Viñátigo)」を訪問される機会に、ご縁をつなぐ形で同行させていただきました。 筆者は、2022年に初めてビニャティゴのワインに出会って以来、カナリア諸島という唯一無二のワインの世界に魅了され、今回が3度目のテネリフェ訪問となりました。今回の旅では、お二人のソムリエがそれぞれのプロフェッショナルな視点から語る見解やテイスティングコメントに耳を傾けながら、改めてこの島のワインの奥深さを感じました。 左からフアン・ヘスス・メンデス氏、森本美雪さん、近藤佑哉さん。大西洋と自社畑を見渡せる、ビニャティコ゚のワイナリー内にあるテイスティングルームにて。 Tim Atkin MWによるカナリア諸島レポートで「ワイン醸造界のレジェンド」に選ばれた、ビニャティコ゚創設者でありDOP Islas Canarias会長、そしてスペインワインと食協会の心強いコラボレーターでもあるフアン・ヘスス氏とともに、テネリフェ島北部に点在するビニャティゴのブドウ畑を巡る中で、標高差や湿ったアリシオス(貿易風)、仕立ての違い、多様な火山性土壌、そしてそれぞれの環境に適したブドウが織りなす島の個性を実感し、ビニャティゴのワインの魅力を改めて深く感じる貴重な体験となりました。 テイスティングの中で、両ソムリエが特に関心を寄せていたのが、「火山性土壌がもたらす香り」についてでした。火山性のワインに感じられる独特の香りは、しばしば“還元香”と混同されることがあります。この点について、フアン・ヘスス氏と、その息子でブドウ栽培家、そしてすでに著名なソムリエたちから“ライジングスター”と称されるホルヘ・メンデス氏の見解をまとめました。 カナリア諸島、テネリフェ島の火山性土壌について カナリア諸島の火山性土壌は非常に若く、平均でおよそ800万年前に形成されました。これは大陸の土壌と比べても、際立って新しい土壌といえます。もっとも、すべての土壌がこの平均に収まるわけではありません。テネリフェ島の北西部、北東部では、粘土やシルト分を多く含む、浸食の進んだ古い土壌でもブドウが栽培されており、その形成時期は約1,100万年前にまでさかのぼります。 一方で、粘土分をほとんど含まない、石や砂、シルトが主体の非常に若い火山性堆積物の土壌でもブドウを栽培しています。どちらのタイプの土壌も世界の他の地域と比べると非常に若く、土壌中に存在するミネラル分や有機物は、植物が容易に吸収できる形ではほとんど存在していません。 このような背景から、発酵前のモスト(果汁)に含まれる窒素(N / nitrógeno)の量は非常に低くなります。健全な発酵を始めるには通常、150〜200mg/L程度のNFA(酵母が容易に吸収できる窒素)が必要とされますが、カナリア諸島ではわずか30mg/L程度しかないケースもあります。つまり、発酵の段階からすでに還元的な環境が生まれているのです。 そのため、ビニャティゴでは「還元的(reductivo)」ではなく、あえて酸化的なアプローチを重視した醸造を行っています。過度に還元的な環境で醸造を進めると、硫黄化合物の生成が促され、水素と結合して硫化水素(SH₂)が生じ、いわゆる卵の腐ったような“還元臭”が現れてしまうからです。 一方で、適度なエアレーションを行い、酵母の活動を健全に保つことで還元環境を回避できれば、ワインの中で感じられる“ミネラリティ”は、別の要素―リン(P / fósforo)由来の成分によって形づくられます。リンに由来する香りは、火打ち石、火薬、あるいはマッチを擦った時の香りのようなニュアンスをもち、まさに火山性土壌に由来するワインを象徴する個性といえるでしょう。 また、有機栽培では土壌中の窒素量が高まることもあるため、その恩恵を最大限に引き出すとともに、サスティナブルな観点から原風景や地域の農業遺産を守るため、ビニャティゴでは徹底して自然に敬意を払った有機栽培を実践しています。土地の個性を尊重しながら、データに基づいた科学的アプローチに則って伝統と未来をつなぐ─まさにこの姿勢こそが、ビニャティゴのワイン作りの根幹を成している、と改めて実感しました。 ビニャティゴの単一畑シリーズーリスタン・ブランコ 写真右からLOMO DE LA ERA(Paraje de la Cruz Santa)、CAMINO DE LA PEÑA(Paraje de la Peña)、そして、MAIPE(Parcela Maipe)。 テネリフェ島の北東から北西へとブドウ畑を巡り、その旅の締めくくりにビニャティゴの単一畑シリーズ3種をテイスティングしました。いずれも接ぎ木をしていない古樹のリスタン・ブランコですが、その個性の違いには目を見張るものがありました。 ソムリエの森本さんと近藤さんのコメントが印象的でした。繊細で伸びやかな酸を湛える「ロモ・デ・ラ・エラ」にはフレンチや和食を、対して、骨格のある酸が魅力の「カミノ・デ・ラ・ペニャ」には中華やタイ料理など、スパイスを効かせた料理がよく合うとのこと。聞けば聞くほど納得です。 そして「マイペ」は、まるで生命力そのものがグラスの中で輝きを放つような一本でした。それぞれの畑を形づくる要素の違いが、どう味わいに現れるのか─フアン・ヘススが一つひとつの畑の個性を丁寧に語ってくれました。 1. ロモ・デ・ラ・エラ/LOMO DE LA ERA(Paraje de la Cruz Santa)仕立て:コルドントレンサード(三つ編み仕立て)、標高:500m、リスタンブランコ土壌:オロタバ渓谷を形成する火山性土壌は、多様性に富んでいます。渓谷西部のクルス・サンタ地区では、東部に比べて土壌が若く、砂やシルト(細かい砂状の土)が多く、粘土は少なめで、玄武岩の小石も多く見られます。こうした土壌は、水はけが良く、根の発達を促す条件を備えています。2. カミノ・デ・ラ・ペニャ/...