バルセロナ旧市街の一角、ボルン地区。今も漁師町の面影を残すこのエリアに、地中海の風と火のぬくもりを感じるレストラン「Cadaqués(カダケス)」があります。目の覚めるような青い海と空─スペイン北東部、コスタ・ブラバの美しい白い町「カダケス」にインスピレーションを得て誕生した店です。
芸術家サルバドール・ダリがこよなく愛したことで知られるこの町は、長く漁業が営まれてきた土地でもあります。そんな「カダケス」の風土を料理で表現したいという気持ちから生まれました。
右から、連載「Spanish Lifestyle」でお馴染みのフアン先生、ジョルディシェフ、創業者でシェフのミケル氏と筆者。
オレンジの木の薪で力強く炊き上げる米料理、市場直送の魚介、そしてカダケスに伝わる伝統料理を現代風に昇華させた、地中海の食文化へのオマージュ「Mar i Muntanya (海と山)」。
「カダケスという土地を通り過ぎてきた、食文化への敬意でもあります」と語る、創業者兄弟の末っ子でシェフのミケル・ロペス・デ・ビニャスプレ氏。
海と山の幸の驚きの融合、そして、火とともに味わう贅沢な時間
カタルーニャ伝統の腸詰め「ブティファラ・ネグラ」。豚の血を加えた濃厚な味わいが特徴。
特に印象に残ったのは「イベリコ豚のトロとオンダロア産(バスク州ビスカヤ県)カツオのパンセタ」。海と山の“トロ”を掛け合わせた一皿で、肉と魚の脂の旨みが調和し、食感にも驚きがありました。カリっとした豚バラと、とろりと脂の乗ったカツオ。ひとくちごとに発見のある、また食べたい、忘れがたい一皿です。
こちらは、ガリシア州の広大な牧草地で約8年間放牧され、成熟した牛「Vaca Vieja Gallega(バカ・ビエハ・ガジェガ)」のタルタルに、マグロの心臓を“モハマ”のように塩漬け・熟成させたものを大胆にトッピング。
写真は、マグロの心臓。山と海の恵みを掛け合わせた、斬新な「Mar i Muntanya(海と山)」の一皿でした。
主役は“火”──オレンジの木の薪火が生み出す米料理
看板メニューは、地中海の伝統に根ざした米料理と、薪火で調理される料理の数々。特にこだわっているのが、オレンジの木の薪を使った調理です。炎の上がる火力の強さと香ばしいアロマが、米に深みを与えるのだそう。
この日いただいたのは「アロス・ネグロ(イカ墨のパエリア)」。魚介の旨みがしっかりと染み込んだ米は、ほどよい固さを残した絶妙な炊き加減です。メンブリージョ(カリン)入りの自家製アリオリソースは、自然な甘みと滑らかさで、しっかりめの味わいのアロスをまろやかに包み込み、より奥行きのある味わいに仕上げてくれます。Julia Vernet のスパークリングワイン(コルピナット)との相性も抜群で、ついグラスが進んでしまう一皿でした。
地中海の自然と風土を、都会の中で味わう贅沢

「Cadaqués(カダケス)」は、バルセロナとマドリードという都会の中にありながら、一歩足を踏み入れると、まるで地中海の美しい港町・カダケスを旅しているかのような、ゆったりと穏やかな空気が流れる空間が広がります。
薪火の香りに包まれながら、こだわりの旬の素材を味わう─そんなしあわせなひとときを提供してくれるレストラン。
「Cadaqués(カダケス)」での食事は、風土や文化を感じる体験そのもの。五感で地中海の豊かさと、本場の薪火料理とパエリアを味わいたい方に、ぜひ足を運んでいただきたいレストランです。
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Cadaqués
📍 Barcelona, en el barrio del Born (Carrer de la Reina Cristina, 6)
Telf. (+34) 932 687 033
📍 Madrid, en la calle Jorge Juan (nº35)
Telf. (+34) 913 609 053
Web: https://restaurantecadaques.com/
Instagram:@restaurantecadaques

Juan Muñoz フアン・ムニョス
Master Sommelier
ワイン、飲料、グルメ食材の国際的な権威。スペイン、ラテンアメリカにソムリエ協会を設立し、各国の名門大学で教育に携わる。現在、アカデミー・オブ・サムリエ(ASMSE)会長兼、El Corte Inglésの専門学院で教鞭をとる。14冊の専門書を発表、「フランス農事功労賞」を授与されたスペイン唯一のソムリエ。カタルーニャ最優秀ソムリエ(1987年)、スペイン最優秀ソムリエ(1993年)、欧州最優秀ワイン・美食コミュニケーター(2007年、ロンドン)など、受賞歴多数。ブラジル世界大会ファイナリスト(1992年)。スペイン、メキシコ、アルゼンチン、ウルグアイなどでソムリエ育成を先駆け、世界のワイン文化発展に貢献している。
@juanmunozramos

Ikumi Harada 原田郁美
Journalist & Creative Director
スペインワインとガストロノミー専門ジャーナリスト。大学卒業後、広告代理店でデザイナーとして、クリエイティブな視点と戦略的思考を培う。2005年から留学を機にスペイン食文化に魅了され、その研究に人生を捧げる。2009年から日本・アジア市場でスペインワインの輸出とプロモーションに従事。2011年に「スペインワインと食協会(AGE)」を創設し、クリエイティブディレクションや執筆を通じてスペイン食文化の普及と市場拡大に寄与している。2012年、プリオラートでワイン造りを始め、2024年に自らの初ヴィンテージをリリース。2025年より、フアン・ムニョス氏と共同企画「Spanish Lifestyle」連載開始。WSET® Level 3, Spanish Wine Specialist(ICEX認定)。山口県出身。
@ikumiharada