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【ベストレストラン50 世界一】進化を続けるディスフルタール(バルセロナ)
Disfrutar

【ベストレストラン50 世界一】進化を続けるディスフルタール(バルセロナ)
Disfrutar

“感情”が核となる食体験

ディスフルタール(Disfrutar)は2024年、「世界のベストレストラン50」で第1位に輝き、さらにミシュラン三つ星を同時に獲得しました。2014年12月のオープン直後、2015年春に初めて訪れて以来、実に11年ぶりに再訪しました。

スペイン語で「楽しむ」を意味するレストランの名の通り、「エル・ブジ(elBulli)」の精神を受け継ぐ三人のシェフが織りなす体験は、当時も強く印象に残っていました。しかし今回いただいたコース 「フェスティバル」 は、その記憶を鮮やかに塗り替えるほどの感動をもたらしてくれました。

全28皿で構成されるこのコースは、まさに現在のディスフルタールの姿を示しています。一皿ごとに感情が揺さぶられつつ、味わいにはしっかりとした軸があり、食後には不思議なほど軽やかで幸福な余韻が残ります。改めて、唯一無二の食体験に心を打たれました。


エル・ブジの経験を受け継ぐシェフたち



ディスフルタールを率いるのは、オリオル・カストロ氏、エドゥアルド・シャトルシュ氏、マテウ・カサニャス氏の3名のシェフ。

3人は、カタルーニャ州コスタ・ブラバのロザスの伝説のレストラン「エル・ブジ」で出会い、研究開発チームの中核として革新的な料理に携わりました。2011年の閉店後、まずカダケスで「コンパルティール(Compartir)を開業。その後、2014年にバルセロナで「ディスフルタール」をスタートさせ、さらに表現の幅を広げました。

彼らが大切にしているのは「感情」です。技術や演出だけでなく、食べる人の心を揺さぶることを重視し、地中海の食材と情緒を巧みに組み合わせた、独自の体験を作り上げています。


「感情」を楽しむ体験


席に着くと最初に手渡されるメニューには、食材名ではなく「驚き」や「楽しさ」といった言葉が並びます。

このレストランにとって「クリエイティブな感情」は、ガストロノミーのDNAともいえる存在であり、店名「Disfrutar(楽しむ)」を体現するものです。メニューにあえて感情の言葉を記すことで、料理の完成度だけでなく、その先にある「ゲストがどのような気持ちになるか」を大切にしていることが静かに伝わってきます。

ここでは、料理を“理解する”というよりも、まず“感じる”ことに身を委ねます。あえて詳細を知らずにコースを進むことで、驚きはより純度の高い体験へと変わっていきます。

視覚、温度、香り、食感─あらゆる要素が精巧に計算され、一皿ごとに小さな驚きと喜びが積み重なっていきます。まるで魔法のような感覚を伴いながらも、味わいの確かさが揺るがないことこそ、このレストランならではの魅力だと感じました。



野菜の絵画(pinturas de verduras)」と名付けられた一皿。絵の具に見立てられているのは、カルソッツや茄子などのペーストです。

そのまま味わうと素材それぞれの個性が際立ち、混ぜ合わせることで新たな表情が生まれる。食べる行為そのものが、まるでキャンバスに向かうような感覚へと変わっていきます。

食事をしながらアートの世界に没入するような体験。そしてペアリングのワインもまた、その味わいやラベルにおいて一皿と響き合い、料理と視覚表現が静かにシンクロしていくのが印象的でした。





キノコのクリスピーリーフに、ポルチーニ(ボレタス)のバターを合わせた一皿。そこに、土田酒造(群馬県川場村)の「土田99 生酛純米」をペアリング。

日本の伝統技術である生酛造りによる奥行きのある旨味が、キノコの風味と見事に響き合い、印象的なマリアージュを生み出していました。

ヘッドソムリエのロドリゴは、この一本に出会うために群馬まで足を運んだと語ります。その言葉どおり、料理と酒の関係性に対する深い探求が感じられるペアリングでした。



アマランサスのサンゴ、牡蠣とミル(海松)のエマルジョン 
新鮮なボラの卵 メルルーサ(白身魚)のクリーム
(Coral de amaranto con ostra y emulsión de alga codium Huevas frescas
de mújol con crema de merluza)


“視覚の味わい”を象徴する一皿。マジックミラーを用いた仕掛けにより、そこにあるはずの料理に手が届かない──そんな不思議な体験から始まります。まずは目で味わい、その後に実際に口にすることで、知覚のズレと驚きを楽しませてくれます。

写真を撮る楽しみも体験の一部として自然に組み込まれており、“視覚で味わう”という新しい食の楽しみ方を提案している点も印象的です。サクサクとしたアマランサスの生地に、ぷちぷちと弾ける、新鮮なボラの卵、そして牡蠣と海藻のエマルジョン。味覚の完成度と遊び心が見事に共存する、記憶に残る一皿です。



「魂が喜ぶ」—そんな感動に包まれる時間


かつてスペインで流行した日本風やアジア風を取り入れたフュージョン料理に少し疲れてしまった、伝統的な料理や素材の輪郭がはっきりわかる料理に惹かれる──そういう話を、食通の方からよく耳にします。

そういう方は、ディスフルタールを前にして「自分にはどうだろう」と思われるかもしれません。けれども、このレストランは別格です。感情を揺さぶる食体験がここにはあり、常に進化を続けています。

ディスフルタールヘッドソムリエのロドリゴ氏(Rodrigo Briseño Martínez)と筆者
ロドリゴ氏の、ワインをはじめあらゆる飲料への深い愛と知識、
そして生産者への想いに心打たれました。



一皿ごとに自然と笑顔がこぼれ、まるで遊園地にいるかのような高揚感が広がります。午後7時半に始まった体験は、夜中の1時まで続きました。最初から最後まで、アイデアも味もサービスも飽きさせず、食べ疲れることはありません。その証拠に、ご一緒した友人が撮ってくれた写真の自分の表情を見ると、楽しさに満ちていたことがよくわかります。まさに、魂が喜ぶ体験です。以前訪れたことのある方も、この11年の進化にはきっと驚かれることでしょう。

バルセロナが育んだ、五感で感じる芸術のひととき



ディスフルタールでの体験は、単なる食事の域を超え、まるで芸術作品のように五感すべてで味わう時間です。バルセロナの比較的落ち着いた通りにありながら、一際目を引くカラフルなエントランスは、街を代表する画家 ジョアン・ミロ が愛した赤や黄色などのポップな色彩の陶磁器に着想を得たといいます。

目に映る色、香り、温度、食感、ペアリング、そして細やかなサービス─それらが一体となり、味覚と感覚が研ぎ澄まされるかのような体験を生み出します。一瞬一瞬に自然と笑顔がこぼれ、心の奥まで満たされる幸福感が訪れる。まさに、魂を歓ばせる食体験のひとときです。



このレストランが生まれた背景には、ミロやサルバドール・ダリ、ガウディといった天才を輩出したカタルーニャの豊かな感性と、その風土があると思わずにはいられません。そしてそれは、バルセロナという街が育んできた創造性とも深く結びついているのだと、改めて強く感じます。

ここで味わう時間は、まさに「バルセロナの芸術」を五感で体感するひとときなのかもしれません。


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Disfurtar(ディスフルタール)
📍C. de Villarroel, 163, 08036 Barcelona
@disfrutarbcn

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Ikumi Harada

Ikumi Harada 原田郁美
Journalist & Creative Director

スペインワインとガストロノミーを専門とするジャーナリスト。広告代理店でデザイナーとして経験を積み、クリエイティブな視点と戦略的思考を身につける。2005年のスペイン留学を機にワインと食文化に魅了され、以来その研究と発信に力を注いでいる。2009年から日本およびアジア市場におけるスペインワインの輸出・プロモーションに携わり、2011年「スペインワインと食協会」を設立し普及と市場発展に努めている。2012年よりプリオラートでワイン造りに取り組み、2024年に自らの初ヴィンテージを発表。2025年からバルセロナの国際ワインコンクール「Barcelona Wine Test」の運営メンバーとして活動。WSET® Level 3、Spanish Wine Specialist(ICEX認定)。山口県出身。
@ikumiharada