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Aromas〜アロマス〜
香りで綴る、スペインのワインとガストロノミー

蒲田に咲く、新しいバスク。 「lober(ロベル)」で味わうピンチョスとシードル、そしてはしご酒。

蒲田に咲く、新しいバスク。 「lober(ロベル)」で味わうピンチョスとシードル、そしてはしご酒。

蒲田の街に、またひとつ足を運ぶ理由が生まれました。昨年11月、開店間もないタイミングで実際に足を運び、すっかり魅了された「lober(ロベル)」。以来、口コミで多くの食通を惹きつけている一軒です。手がけるのは、当協会推奨レストラン「Sonrisa(ソンリサ)」や、ナチュラルワインバー兼フラワーショップ「JUURI(ユーリ)」を率いる上田光嗣シェフ。割烹で8年にわたり腕を磨いた後、和食の技術と感性を生かしつつ、スペイン料理の世界へと歩みを進めた異色の経歴を持つ実力派です。「Sonrisa(ソンリサ)」では、日本料理のアプローチを取り入れた独創的なスペイン料理が高く評価され、「ミシュランガイド東京」ビブグルマンにも掲載されました。


「lober(ロベル)」に込められた想い



店名の「lober(ロベル)」は、バスク語の造語です。

「『繁栄』を意味する『Loratu(ロラトゥ)』と、『緑』を意味する『Berdea(ベルデア)』を組み合わせて名付けました」と上田シェフは語ります。スペインのシードルボトルの多くが緑色であることにちなみ、日本でピンチョスとシードルの文化が繁栄してほしいという思いを込めたそうです。

さらに『Loratu』には『開花する、咲く』という意味もあり、「花と深く関わる自分にとって、この言葉はコンセプトにぴったりでした」とシェフ。

「ピンチョスは小さなパーツの組み合わせで成り立つ料理ですから、あえて全て小文字で『lober』と表記しています」とも。こうした細部までのこだわりと、センスの光る名前。それが、この店の世界観を象徴しています。

蒲田の「はしご酒」とバスクのバル文化をつなぐ


上田シェフは、蒲田に根付く「はしご酒」の文化を、スペイン・バスク地方のバルホッピングと重ね合わせ、シンプルに気取っていない蒲田の雰囲気が好き、ととても好ましく感じているそうです。

昨年11月、筆者が訪れた際も、カウンターに立つとまるでサンセバスティアンやビルバオのバルを訪れたかのような錯覚に襲われました。眼前には色とりどりのピンチョスが並び、黒板には高級食材をふんだんに使った小皿料理がずらり。自然と目移りし、つぎからつぎへと手が伸びてしまいます。

また、上田シェフはバスクの名店ピンチョスバルを食べ歩く際、必ずメジャーを持参し、カウンターの高さや奥行き、手の届きやすさまで計測していたそうです。その細部へのこだわりは「lober」にしっかりと活かされており、筆者も立ち飲みスタイルで2時間以上、食べて飲んで過ごすという自身の“立ち飲み最長記録”を更新してしまうほど、居心地の良さを実感しました。

オープンしたばかりの店内では、すでに常連や知り合いの方々がシードルとピンチョスを片手に会話を楽しむ姿も。初めての訪問ながら、温かく居心地の良い空間に包まれ、近くに住んでいたら間違いなく通いたくなる、そんな魅力あふれる時間が流れていました。


こだわりの詰まった、絶品ピンチョス



カウンターのショーケースには約20種のピンチョスが並び、黒板には温かい小皿料理が揃う。合計で40種にも及ぶその充実ぶりから、「lober(ロベル)」がピンチョスバーに振り切っている本気度が伝わってきます。一品450円〜1,600円と手頃な価格帯なのも嬉しいポイントです。


アリオリグラタンのピンチョス3種(カニ、イカ墨、トリュフ)


一緒に来た人と合わせることなく、自分の好きなものを好きなタイミングで楽しめる。
気を使わずに自分のペースで食事ができる。この自由さもピンチョスバーの大きな魅力です。

「僕のピンチョスのこだわりは、お客さんが自然に手に取ってしまうものしか作らないことです」と上田シェフ。形や色合い、遊び心あるデザインに加え、トリュフやフォアグラ、雲丹、蟹などの高級食材、そして日本各地の確かな生産者の素材を組み合わせています。さらに、現地バルで人気のメニューも自らの手でブラッシュアップして提供。「やっつけメニューは一切作らない」という徹底した姿勢は、実際に味わうとより鮮明に伝わってきます。




「自家製ボニートとボケロネスのピンチョス」。上田シェフお勧めのシードルと。
爽やかな酸味が心地よいペアリングに、食欲のスイッチが入ります。





ピンチョスは提供直前にトースターで温められ、香りと食感が最大限に引き出されます。小皿料理も注文を受けてから調理され、熱々の状態で届けられる。一口味わえば自然に「美味しい!」と声が出るほどで、次はどれを食べようかと目移りしながら、グラスを傾ける時間が続きます。こだわりの旬の素材と確かな技術が一口に凝縮され、少しずつ絶品を味わえる喜びは、お酒好きにはたまらない体験です。

一杯目のシードルからチャコリ、さらにオレンジワインへ。料理とお酒、会話が弾むひとときを、誰もが思う存分楽しめる——まるで、バスクを旅しているかのような幸福感に包まれます。



鮮やかなグリーンが美しい、人気の「浅利と春菊のカルドソ」。オレンジワインと。



厳選シードル100種。0歳から100歳まで楽しめる店を目指して


「lober(ロベル)」のもうひとつの主役は、100種類を超えるシードルの存在です。スペイン、フランス、日本を中心に厳選されたボトルが揃い、常時8種をグラスで提供。スタッフ全員が「シードルアンバサダー」の資格を持つ点も、この店ならではの強みです。

上田シェフは語ります。「僕自身、アルコールに強くないので、お酒が苦手な方や少量で十分という方の気持ちがよく分かるんです。普段ワインを1〜2杯で楽しむ方でも、アルコール度数の低いシードルなら5〜6杯楽しめる。そういう軽やかさと多彩さが、幅広い人々が同じテーブルで楽しめる理由だと思っています」。顔色やペースを気にせず、自然体で過ごせる空間。割り勘やペース配分に気を使う必要もありません。


さらに、日本ではまだ「リンゴ農家の副産物」というイメージが強いシードルですが、上田シェフは「ワインのように多彩な可能性がある飲み物」として、多くの人に知ってほしいと考えています。「泡から白、オレンジ、ロゼ、薄赤まで、さまざまな表現があります。さらにミントや唐辛子、生姜、花、カリン、ぶどう、ホップなどを加えた個性的なシードルも揃え、味わいの幅はほぼ無限です」と語ります。

上田シェフは、シードルの生産者を迎える際には、ぜひたくさんの種類を飲んで、それぞれのシードルが目指す世界観を感じてほしいと考えています。「現場での私たちの意見や、お客様の声も活かしてもらえるはずです」とも。

そして、「0歳から100歳まで、飲む人も飲まない人も、同じテーブルで気兼ねなく楽しめる店を作りたい」という信念。この思いは、シードルやこだわりのノンアルコールドリンクのラインナップなど、店作りの細部にまで息づいています。「誰もが楽しめる店」という理想が、ここにはしっかりと形になっているのです。

蒲田で花開く、バスク流はしご酒の愉しみ


「気取っていないこの街が好きなんです」と上田シェフが語るように、蒲田はただの出店場所ではなく、街の文化そのものが魅力です。ここに根付く“はしご酒文化”は、サンセバスティアンやビルバオのバル巡りを思い出させます。実際、上田シェフも「蒲田はスペインだな、思っています」と語ります。徒歩圏内には「Sonrisa(ソンリサ)」や「JUURI(ユーリ)」もあり、自然と回遊が生まれる街の構造もまた、蒲田ならではの魅力です。

「まず座ってピンチョスを食べようとは思わないし、シードルもレストランで飲む気にならない。だから立ち飲みスタイルにしました」と上田シェフ。「この街のはしご酒文化の一軒に自然に溶け込みながら、メインのレストランの0次会や2次会として、サクッと楽しめる場所にしたかったんです」と、立ち飲みを選んだ理由を明かします。


店内には、サンティアゴ・デ・コンポステーラ巡礼路を象徴するホタテ貝が床に埋め込まれ、北スペインへの想いや旅情をそっと呼び覚まします。「lober(ロベル)」は、日常の延長線上にありながら、確実に食の体験を引き上げてくれる場所。一軒で完結するのではなく、街とともに楽しむ——そんなバスク的な時間の過ごし方が、蒲田という土地で、上田シェフのもとで、ゆっくりと花開き始めています。

また訪れたい—そう思わせてくれる、心地よい余韻を残すお店です。

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lober 【ロベル】
📍〒144-0052 東京都大田区蒲田3丁目17−26 伏田ビル 1F
@lober.pintxos.sidra

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・スペインワインと食協会推奨レストラン Sonrisa(ソンリサ)


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Ikumi Harada

Ikumi Harada 原田郁美
Journalist & Creative Director

スペインワインとガストロノミーを専門とするジャーナリスト。広告代理店でデザイナーとして経験を積み、クリエイティブな視点と戦略的思考を身につける。2005年のスペイン留学を機にワインと食文化に魅了され、以来その研究と発信に力を注いでいる。2009年から日本およびアジア市場におけるスペインワインの輸出・プロモーションに携わり、2011年「スペインワインと食協会」を設立し普及と市場発展に努めている。2012年よりプリオラートでワイン造りに取り組み、2024年に自らの初ヴィンテージを発表。2025年からバルセロナの国際ワインコンクール「Barcelona Wine Test」の運営メンバーとして活動。WSET® Level 3、Spanish Wine Specialist(ICEX認定)。山口県出身。
@ikumiharada