スペインの美食を、日本の日常へ。食文化の新たな可能性を探る 「Spain Food Nation Summit Japan 2026」レポート
2026年9月28日、ホテルニューオータニ東京にて、スペイン貿易投資庁(ICEX)とスペイン大使館経済商務部が主催する「Spain Food Nation Summit Japan 2026」が開催されました。今回のテーマは、「手の届く贅沢(Affordable Luxury)」です。 円安や世界情勢の不安定化に伴う物価上昇によって、輸入食品やワインを取り巻く環境が変化しています。これからスペイン産食品と飲料が日本市場でどのような価値を提供できるのか。その可能性を探るサミットです。 スペインは地域ごとに異なる気候風土に育まれた豊かな食文化をもち、EU最大の有機栽培面積を誇るオーガニック大国でもあります。しかし日本ではまだ十分に知られていない食材や食文化も数多くあります。 本サミットでは、ワインと食品、それぞれの分野で活躍する専門家によるラウンドテーブルが行われました。スペイン産品の価値をどのように伝え、日本の消費者との接点を広げていくのか。業界の第一線で活躍する方々の議論から、多くの気づきを得る機会となりました。 異なる立場のプロフェッショナルが語る、スペインの可能性 ワインラウンドテーブルでは、「コスパからの脱却」プレミアム化への具体戦略がテーマ。スペインワインの魅力を価格だけでなく、その価値によって伝えていくための戦略が取り上げられました。登壇者は、カーヴ・ド・リラックスの人見裕介氏、ウォンズパブリシングの名越康子氏、ジェロボームのカール・ロビンソン氏、東京ソムリエギルドの須藤亜希氏です。 一方、食品ラウンドテーブルでは、豚肉の「次の一手」を探るというテーマ。アフリカ豚熱による豚肉の輸出停止を背景に、これまで十分に紹介されてこなかったスペイン食材の可能性が議論されました。登壇者は、三越伊勢丹の中野健一氏、V&Kの岡本ビクトル栄氏、ビオセボン・ジャポンの向井昭登氏です。 とくに印象的だったのは、登壇者それぞれの専門領域や立場の違いが、より議論に奥行きを生み出していたことです。輸入、流通、小売、飲食、情報発信など、異なる領域で経験を重ねてきた専門家の方々は、同じスペイン産品について語る際にも、それぞれちがう視点と経験があります。商品の品質や背景にあるストーリーをどう伝えるか。消費者にどのようなきっかけで興味を持ってもらうか。そして、実際の購買につなげるには何が必要なのか。 一つのテーマを複数の視点から捉える。そうすることで「スペイン食文化の普及」という大きな課題が、より具体的なものとして見えてきました。それぞれの分野の第一線で活躍する方々の経験や考えに、一度に触れられたことは非常に貴重でした。 専門的な議論をわかりやすく伝える工夫 ラウンドテーブルの進行方法にも、印象に残った工夫がありました。議論に合わせて、要点を簡潔にまとめたスライドがスクリーンに映し出されていたことです。 登壇者の方々が自身の経験を交えたり、過去の事例や具体的なエピソードを紹介される際、ステージにスライドがあることで、その話が全体のテーマとどのようにつながっているのかが理解しやすくなっていました。スライドの存在により要点が視覚的に整理され、登壇者の話を自然に追うことができたからです。 この工夫は、スペイン食文化の普及にも通じるものだと思いました。どれほど魅力的な食材やワインであっても、その価値が相手に伝わらなければ、興味をもってもらうことは難しいものです。 専門的な知識や豊富な経験を、受け手にとってわかりやすい形に整理して届けること。その重要性を、サミットの進行そのものからも感じました。 百貨店から始まる、新しいスペインとの出会い 今回のサミットで、とくに印象に残った提案があります。第二部 食品ラウンドテーブル「手の届く贅沢~豚肉の次の一手を探る」というテーマにて、登壇された三越伊勢丹の中野健一氏によるスペイン菓子をテーマにした百貨店催事のアイデアです。 この発想は、まさに目から鱗でした。日本には、全国各地のお菓子を求めて百貨店の催事に足を運び、新しい味わいやつくり手との出会いを楽しむ方々がいます。お菓子そのものに強い関心を持ち、まだ知らないおいしさを積極的に探している消費者層です。そうした方々に向けて、「スペイン菓子」という新しいテーマを提案するのだと。 これは、今までありそうでなかったものです。スペインに関心がある人を集めるのではなく、すでにお菓子に関心を持っている人々に、スペインと出会う機会をつくるという発想です。 「スペインが好きだからスペイン菓子を食べる」のではなく、「お菓子が好きだからスペインを知る」。この順序の転換に、大きな可能性を感じました。 スペイン食文化の普及を考えるとき、私たちはつい、スペインの魅力をどう説明するか、何を紹介するかという視点から考えがちです。しかし消費者にすでに存在する興味や関心から出発すれば、これまでスペインに特別な関心をもっていなかった方々にも、自然な形でその魅力を届けることができるのでは、と。 菓子は、地域の歴史や風土、食習慣とも深く結びついています。一つのお菓子を味わうことが、その土地の文化を知るきっかけになるかもしれません。日本で知られていないスペイン菓子はたくさんあります。 さらに菓子を入り口とし、スペインの食材や飲み物、地域ごとの食文化へと興味が広がっていく可能性もあります。その土地の素材や伝統に興味をもち、やがて別の料理やワインを知る。そうした出会いの積み重ねが、食文化への理解を深めていくのだと思います。というより、そうなるよう広げていきたいものです。 百貨店という多様な消費者が訪れる場所だからこそ、そうした新しい出会いを生み出せるのではないでしょうか。消費者との接点を熟知する小売のプロフェッショナルならではの視点に、強く惹かれました。まずは三越伊勢丹さんで、ぜひ実現してほしい企画です。開催されたときには、当協会も張り切って現地取材したいと思います。 「手の届く贅沢」とは、価値ある体験との出会い 今回のサミットを通して改めて考えたのが「手の届く贅沢」という言葉の意味。贅沢とは、必ずしも高価なものを購入することだけではありません。 これまで知らなかった味わいに出会うこと。食材の産地やつくり手の思いを知ること。日々の食卓に、少し特別な楽しみが加わること。そうした体験にこそ、豊かさがあると考えています。...