Record 002 「ディスフルタール(Disfrutar)」オリオール・カストロ氏が語った、未来への言葉
スペイン食文化をつくる人たち。 100人の物語を未来へ。 この連載は、スペイン食文化を支える人々との出会いのなかで生まれた、ひとつの言葉や瞬間をを記録する試みです 2025年3月12日、13日 東京・市ヶ谷ガストロバル「Tinc Gana(ティンガナ)」 その言葉に出会った場面 2025年3月12日と13日の夜、東京・市ヶ谷にあるガストロバル「Tinc Gana(ティンガナ)」にて、“未来のガストロノミー(美食)”を体験するイベントが開催されました。 世界が注目する究極のコラボレーション。それは、スペインの画期的な機能素材ブランド『ソーサ(SOSA)』と、ミシュラン3つ星、そして2024年「The World’s 50 Best Restaurants」で世界一に選ばれたバルセロナの名店『ディスフルタール(Disfrutar)』による二夜限りのイベントです。 この夜、オリオール・カストロ氏による8皿のプレゼンテーションが披露されました。 その日、もっとも印象的だったのは、料理そのものだけではありません。オリオール・カストロ氏が語った、この一言です。 「人生で本当に大切なのは、何を体験したかではなく、それがどのように記憶に残るかです。」 この言葉は、彼の料理観そのものを表現しているように感じました。料理を味わった瞬間だけではなく、その体験が記憶となって残り、いつか人生のどこかでよみがえる。そこまでを含めて、料理なのかもしれません。 『ディスフルタール』の料理は、たとえ大胆な手法で再構築されていたとしても、そこに素材への敬意と文化への理解が込められています。 今回、披露された8皿の料理にも、その哲学が確かに表現されていました。 この言葉を残したい理由 じつはオリーオール氏は、料理の提供前にも伝えてくれました。フランス料理や日本料理への深いリスペクトについて語るなかで「人生のどんな状況でも敬意を払うことはとても大切です」と。 2001年に初来日の際、日本料理について知っていたのは、寿司と刺身だけだったそうです。しかし実際に日本を訪れると、想像を超える食材の豊かさや、繊細な技術にふれ、感動したといいます。そのときは、まず“美味しい”という感覚に心を奪われるも、その味わいの奥にある思想や文化は、まだしっかりと見えていなかったと語りました。それが時間を重ねるうち、少しずつ理解するようになったそうです。日本料理に息づく「静かな感性」、その背景にある「文化の哲学」を。 最初の体験では気づかなかったものが、年月を経て、少しずつ見えるようになっていったのです。 この話を聞いて、あらためて私は、人生を豊かにするのは体験の数ではないと思いました。 大切なのは、その体験が自分の中でどんな意味をもち、どんな記憶として残っていくのか。その積み重ねが、その人の人生そのものをつくっていくのではないでしょうか。 この日、私は料理のプレゼンテーションを取材するために現場へ行きました。けれど取材を終える頃には、すっかり別のことを考えていました。 「自分の人生で本当に大切だと思うことはなんだろう」いつの間にか、自問していることに気がつきました。 料理を味わい、その人が大切にしているものに触れる。すると目の前にある料理だけではなく、自分がこれまで何を体験し、何を心に残してきたのかまで、振り返ることになります。 料理は、食べ終えればなくなります。けれど、そのときに感じた驚きや、誰かの言葉、そこで考えたことは、記憶として残っていく。だからこそ、料理には、人の心に残る力があるのだと思います。 いま、料理界を支える現役の方々はもちろん、これから目指す方々に届いてほしいと思います。そして、ジャーナリストとして私が残したいのも、まさにそこです。 料理そのものだけではなく、その料理をつくった人が何を考え、何を大切にし、どんな人生を歩んできたのか。その人の言葉が、誰かの記憶に残るように。 そして、その記憶がいつか、未来の誰かに何かを伝えてくれるように。 最後に残す言葉 「人生で本当に大切なのは、何を体験したかではなく、それがどのように記憶に残るかです。」 Tomoko Kato 加藤智子 スペイン食文化の記録者 / スペインワインと食協会 共同代表 ...