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Aromas〜アロマス〜
香りで綴る、スペインのワインとガストロノミー

【銀座マシア】マテウ・ビジャレットシェフに聞く。カタルーニャ料理とスペインワインの“これから”

【銀座マシア】マテウ・ビジャレットシェフに聞く。カタルーニャ料理とスペインワインの“これから”

去る11月、バルセロナで16回目を迎えた「Gastronomic Forum Barcelona(ガストロノミック・フォルム・バルセロナ)」が開催され、今回は特別企画として「Nueva cocina catalana(新しいカタルーニャ料理)」に焦点が当てられました。筆者もフォーラムを訪れ、注目のシェフであるマテオ・ビジャレット氏に直接取材することができました。イベント会場には熱気あふれる著名な料理人が集い、カタルーニャ料理の現在と未来を体感できる貴重な場となりました。

マテウ・ビジャレットシェフ独占インタビュー


1. ガストロノミック・フォルム・バルセロナについて

【原田
ご自身のセッション「Del Maresme a Tokio(マレスメから東京へ)」では、どのようなメッセージを伝えたかったのでしょうか。また、発表中の印象はいかがでしたか。

【マテウ】
Masia(マシア)」の旗印のひとつは、私自身のルーツです。スペイン人であり、カタルーニャ人であり、マレスメ出身であること。タイトルにもそれを反映しました。地元マレスメの海と山の恵みを中心に、日本の食材と組み合わせるという私たちのアイデンティティを示したかったのです。ステージに立つことにとても居心地の良さを感じ、ここで私たちが何者で何をしているかを伝えられることが嬉しかったです。多くの友人や家族、そして同業者が観客として来てくれたことにも感謝しています。

 

【原田
マテウシェフのプレゼンテーション中、スペインでミシュラン三つ星を得た初めての女性シェフであり、伝説的なレストラン「サン・パウ」のカルメ・ルスカイェーダシェフが熱心に聴講していたのが印象的でした。当日、どのような会話を交わしましたか。

【マテウ】
カルメとは、長年にわたる相互の尊敬と敬愛に基づいた関係があります。同じマレスメ出身ということもあり、共有している価値観や感覚がとても多い。彼女が会場にいるとは知らなかったので、客席で姿を見つけた瞬間は本当に驚き、そして胸が高鳴りました。あのような存在からのサポートを感じられることは、料理人としてこの上ない名誉です。短い言葉でしたが、「とても良いプレゼンテーションだった。そのまま進みなさい」と声をかけてくれました。その一言は、今も大切にしています。


2. 「Tasty Catalonia World Tour」東京での経験



【原田
2025年、カタルーニャはIGCATにより「世界のガストロノミック・リージョン」として認定され、ヨーロッパで初の快挙となりました。それを記念して、2025年5月26日、リッツカールトン東京で開催された「Tasty Catalonia World Tour」では、カタルーニャ州を代表し、世界的にも注目を集める2人のシェフ、ジョアン・ロカ氏と、カルメ・ルスカイェーダ氏と共にカタルーニャの食文化を紹介しました。シェフとして最も印象的だった瞬間は何ですか。

【マテウ】
3か月にわたる準備の集大成であり、イベント直前の3日間、そして当日はまさに感情のジェットコースターでした。ジローナの三つ星レストラン「エル・セリェール・デ・カン・ロカ」やカルメのチームとのシナジーも素晴らしく、一緒に料理ができたことは圧巻でした。200名以上の来場者に、17種類のタパスを通してカタルーニャの土地と創造性を体験してもらえました。すべての来場者が意図した通りに受け取ったわけではないかもしれませんが、イベント自体は確実に一定の成果を上げたと思います。


3. 日本におけるカタルーニャ料理の現状

【原田
日本では、スペイン料理全体の中にカタルーニャ料理が含まれることが多く、その独自性を伝えるのは難しい状況であると感じています。日本での経験から、この現状をどう感じていますか。

【マテウ】
まだまだ課題は多いです。カタルーニャ料理とスペイン料理は同時に紹介することもできますが、基準を引き上げる必要があります。東京には、スペインやカタルーニャ出身のシェフが在籍し、高い料理基準を持つレストランをもっと増やすべきです。個人的には、日本の方々にはまだ十分に価値が伝わっていないと感じます。


4. 銀座マシアで伝えるカタルーニャへの想い

【原田】
銀座「Masia(マシア)」で料理を味わうと、マテウシェフの、カタルーニャやスペインへの深い想いがひしひしと伝わってきます。ご自分の故郷を料理で伝えることには、どのような意味がありますか。

【マテウ】
料理は私がこの25年間ずっと続けてきた表現手段です。自分の職業や故郷について語ると、いつも感動が込み上げます。東京という世界屈指のグルメ都市で発信できることは、大きなメディア露出の機会にもなり、私にとっての表現の場となっています。

 

5. 開かれた土地としてのカタルーニャの強み

【原田】
現在、カタルーニャには62軒のミシュラン星付きレストランがあります。ジョアン・ロカ氏は、その背景には常に他文化に開かれてきた歴史があると述べています。この点についてはどう思われますか。

【マテウ】
私も同意します。カタルーニャは長い歴史の中で常に他文化から影響を受けてきました。例えばアラブ文化がなければ、私たちが当たり前のように使う多くの食材は存在しません。コロンブスの航海がなければ、トマトやチョコレート、ジャガイモ、ニョラ(唐辛子)なども手に入らなかったでしょう。このような背景こそ、カタルーニャの豊かな食文化の源です。


6. 日本におけるカタルーニャ料理


【原田

国際的なフーディの間では、カタルーニャは一流のガストロノミー地域として認知されています。しかし日本では、バスク料理の方がブランド力が強い印象です。カタルーニャ料理にはどのような可能性があると思われますか。

【マテウ】
まだ道のりは長いです。バスク料理はスペイン料理の代表格としての地位を確立しましたが、カタルーニャ料理も「Masia(マシア)」のようなレストランや、カタルーニャ出身シェフの参加によって、もっと認知度を高めることができます。リッツカールトン東京でのイベントのように、積極的にプロモーションを行うことが重要です。


7. スペインワインと料理の関係

【原田】
スペインは世界的なガストロノミー大国として知られています。シェフとして、またレストランでのワイン選定の経験から、日本におけるスペインワインの存在感や可能性をどう見ていますか。また、料理との組み合わせはどのように考えていますか。

【マテウ】
残念ながら、日本の消費者にとってスペインワインは、いまだ二流の存在として見られています。日本では、フランスやイタリアのワインが非常に高い位置に置かれており、その評価に追いつくのは容易ではありません。ただし、不可能だとは思っていません。私たちのようなレストラン、そして各種機関の側からも、まだ多くの取り組みが必要です。

Masia(マシア)」において、ワインは私たちのDNAの一部です。ワインがなければ、私たちの料理は香りも味わいも、はるかに乏しいものになってしまうでしょう。ワインは多くの料理やデザートにおいて重要な役割を果たしています。
ヴェルモット、ランシオ、白ワイン、シェリー、赤ワイン─。

それらはすべて、私たちの料理を構成するうえで欠かすことのできない要素です。


 

また、今年からコラヴァンを導入し、プレミアムワインのグラス提供を始めました。これからは、より上質なスペインワインをグラスでも体験していただけます。その一歩は大きいと思っています。


8. マテウシェフが、日本で伝えたい未来像


【原田
今後、日本でカタルーニャ料理やスペイン料理をどのように発展させ、伝えていきたいですか。また、「未来の一皿」はどのようなイメージですか。

【マテウ】
これからも日本での活動を続け、スペイン・カタルーニャ料理に関連した新しいレストランコンセプトを開発していきたいです。未来の一皿は、海や野菜を中心に、動物性タンパク質を控えめにした料理です。限りある自然資源を意識することが、これからの料理人に求められる責務だと考えています。

【原田
マテウシェフ、料理に対する深い情熱と、カタルーニャおよびスペインの食文化への真摯な思いをお聞かせいただき、本当にありがとうございました。

当協会推奨レストランである「Masia(マシア)」の取り組み、そして日本の地で挑戦を続けるマテウシェフの言葉は、スペインワインと食文化の魅力を、今後どのように日本で広げていくべきか、多くのヒントを与えてくれました。スペインワインと食協会、そして連載「Spanish Lifestyle」としても、シェフの活動に共鳴しながら、日本におけるスペインのガストロノミーとワイン文化のさらなる発展に貢献していきたいです。今後のご活躍を心より応援するとともに、引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

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Masia(マシア)
住所: 東京都中央区銀座2丁目4−6 銀座ベルビア館 8F
@mateovillaret
@masia_tokyo


Ikumi Harada

Ikumi Harada 原田郁美
Journalist & Creative Director

スペインワインとガストロノミーを専門とするジャーナリスト。広告代理店でデザイナーとして経験を積み、クリエイティブな視点と戦略的思考を身につける。2005年のスペイン留学を機にワインと食文化に魅了され、以来その研究と発信に力を注いでいる。2009年から日本およびアジア市場におけるスペインワインの輸出・プロモーションに携わり、2011年「スペインワインと食協会」を設立し普及と市場発展に努めている。2012年よりプリオラートでワイン造りに取り組み、2024年に自らの初ヴィンテージを発表。2025年からバルセロナの国際ワインコンクール「Barcelona Wine Test」の運営メンバーとして活動。WSET® Level 3、Spanish Wine Specialist(ICEX認定)。山口県出身。
@ikumiharada