Esencia ジローナの夜に、香りの本質と出会った。
旅のなかで舌が慣れはじめた3日目、完食の歓びと、記憶に残る香りに包まれて・・・。 「Esencia ─ 本質をめぐる旅」では、食を通して感じられる価値観の“少し先”に出会う瞬間を綴っています。 今回の舞台は、カタルーニャ地方の美しい町·ジローナから。 プレスツアーにて連日のガストロノミーなフルコースの中、驚くほど自然に、心と体に馴染んでいったディナーがありました。 ■ 体と心に、ちょうどいい料理たち プレスツアーが始まってから、毎食がフルスケールの美食体験。 ありがたいことにスペインらしい豪快なポーションと味の奥行きに魅了されながらも、完食できたのは初日だけでした。私達は一般の方々より強靭な胃袋をもつメンバーであるにも関わらず。 しかし3日目の夜、ジローナのレストランでは、たしかに何かが違いました。 ジローナで21時。店の外観 まずは前菜2品。 サラダ パテ サラダ、パテと、それぞれ素材の生かし方、調味料の加減、香りの立たせ方が実に繊細。 口にした瞬間に「これは最後まで行ける」と直感しました。 野菜のグラタンは、とろけるように優しく、野菜だけということが信じられないほど旨みがあります。 野菜のグラタン 魚料理は、皮の火入れも塩加減も絶妙。身もふっくらジューシーな仕上がりです。 肉料理では思わず「これぞ、体が受け入れるボリューム」と感じたほど。付け合わせのジャガイモまでしっとりホクホクしていました。 肉料理 そしてデザートにたどり着いた時、ふと気づいたのです。 誰一人、途中でフォークを置いていない!笑 ■ プロとしての直感が震えた、オリーブオイルとの出会い この夜、料理の背景にある“香りの本質”に心から感動したのは、実は、あるエキストラバージン·オリーブオイルでした。 私は職業柄、というより幼い頃から香りにとても敏感です。 とくにオリーブオイルについては、オリーブオイルソムリエの勉強をしたこともあり、わずかなニュアンスにも反応してしまいます。それは、おそらく一般的には気づかれないような香りの奥に隠れている香り。ごくごく微細なネガティブ要素、たとえば保存環境による変化にまで反応してしまう、少し“やっかいな”嗅覚ともいえます。 スペイン産はもちろん、スペイン産でなくとも上質なオイルが存在するのは理解しているし、実際に食べて理解しています。その味わいには、心から信頼できるものがたくさんあります。わざわざ書くまでもありませんが、自分が輸入しているオイルだけが良い、というつもりはまったくありません。 実際、レストランで100%ネガティブ要素を感じることがないオイルに出会うことも、何度かありました。 ただ正直なところ、やはりそれは稀です。私にとっては。 スペインでも日本と変わらず、レストランに入るたび、必ずオリーブオイルをテイスティングします。ほんの一滴で、その日のテンションが決まることもあるほど。プロの視点から「これは間違いない」と、心から思えるオイルに出会える機会は、数多くのレストランを回っていても、そうそうあるものではありません。 だからこそ、このジローナのレストランで出会ったオイルには、本当に驚きました。ひと口含んだ瞬間に、背筋がすっと伸びてくるような感覚になり、座り直して、もう一度、全集中して味わったほどです。(全集中とはいえ、周りの方がそこまで気づかない程度に。笑) 澄んだグリーン、マイルドでフルーティーな味わい。心地よくポリフェノールが追いかけてくるような後味。そして何よりも“透明感”のある香り。 これは、誰かを持ち上げるためでも、比較するためでもなく、ただ「素晴らしいものに出会った」という純粋な驚きと喜びとして、残しておきたい記録です。 とにかく、あったのです。 この夜、このレストランに。...