国境を越えて響き合う美食とワイン
【コンラッド東京】ジャンルを越えた一夜限りのスペシャルディナー

2026年4月23日、コンラッド東京の中国料理「チャイナブルー」。高さ8メートルのワインセラーと、ブルーで統一されたスタイリッシュなインテリアが印象的なこの空間で、特別なディナーが開催されました。窓一面に広がる浜離宮恩賜庭園と東京湾の美しい眺望を背景に集ったのは、日本のフランス料理界を牽引する老舗「銀座レカン」、モダンチャイニーズの名店「チャイナブルー」、そして遥々スペイン・カナリア諸島テネリフェ島から来日した名門ワイナリー「ボデガス・ビニャティゴ」創設者ファミリー。3カ国の食文化と一流の感性が響き合う、かつてない試みとなりました。

左から、ボデガス・ビニャティゴ創設者フアン・ヘスス氏、VIñátigoワイン輸入元Sara Corporation代表の内海紗良氏、コンラッド東京 中国料理「チャイナブルー」 料理長陳志偉 (チャン・チ・ワイ)氏、「銀座レカン」9代目料理長 杉田周人氏
コンラッド東京 エグゼクティヴ ソムリエの森本美雪さんが「ご用意した40席はすぐに満席になりました」と語る通り、会場は両店のお得意様やファンの熱気に包まれていました。長年スペインワインを取材・研究してきた筆者にとっても、テネリフェ島の火山性土壌が育むワインと、東京を代表する中華とフレンチの名店によるコラボレーションを取材できる貴重な機会であり、大きな期待を抱きながらこの日を迎えました。
当日はソムリエ、シェフ、生産者へのインタビューも交えながら、その魅力を取材。大西洋に浮かぶ火山島が生み出す個性豊かなワインが、フランス料理と中国料理という異なる美食の世界と見事に融合した、印象深い一夜となりました。
テネリフェの風が導いた出会いと、厨房での新発見
ワイナリー訪問から生まれたインスピレーション
左から、近藤佑哉氏、森本美雪氏、フアン・ヘスス氏。テネリフェ島最北東部、標高約350mに位置するこの畑は、
1100万年前に形成された島最古の土壌を有し、赤色玄武岩を含む粘土質の大地には、
樹齢120年以上の自根のリスタン・ブランコが、今なお力強く根を張り続けています。
この画期的な企画は、日本を代表するソムリエ、森本美雪さん(コンラッド東京 エグゼクティヴ ソムリエ)と近藤佑哉さん(銀座レカン CBO)が、昨年10月にテネリフェ島のワイナリー「ボデガス・ビニャティゴ」を訪問したことから始まりました。
現地では、火山島ならではの雄大な自然のエネルギーや、土地に息づく独自の気候風土、そしてそこに暮らす人々の文化に触れ、「生命力」や「自然の力強さ」を全身で感じる貴重な体験となったといいます。さらに、お二人は、絶滅の危機に瀕していた土着品種の保護と継承に真摯に取り組むビニャティゴの哲学に深く感銘を受けました。
近藤さんは、「その土地でしか味わえない特別なワイン」であることこそがビニャティゴの最大の魅力だと語ります。そして、その個性を守り育てるワイン造りへの真摯な姿勢だけでなく、ワインが島のレストランや人々の暮らしに自然に溶け込み、文化の一部として調和している光景にも強く心を動かされたそうです。今回のディナーには、そうした現地での感動や体験を、多くの人々に伝えたいという想いも込められています。
厨房で交差する熱気と驚き
銀座レカン9代目料理長 杉田周人氏
フレンチと中国料理という異なるジャンルの一流料理人が、互いに刺激し合う過程も、このディナーの大きな魅力のひとつでした。フランス料理一筋で研鑽を積み、2020年には「メゾン タテルヨシノ 大阪」の副料理長に就任。その後、「SÉZANNE」を経て、2025年8月より銀座レカン9代目料理長を務める杉田周人さん。フランス料理の本質を大切にしながらも、自由な発想で自身の感性を表現し、「香り」を一皿に込め、「美味しさ」と「美しさ」という二つの“美”を追求する料理人です。
そんな杉田シェフは、チャイナブルーの厨房に入った際の驚きを、「ダイナミックな鍋の音や火力の音、特有の油の香りに、全く違う新しい発見がありました」と振り返ります。異なる食文化が交差する現場で受けた鮮烈な刺激は、新たな料理表現へのインスピレーションへと繋がっていきました。
「食に国境はない」という思い

チャイナブルー マネージャー絵幡誠一氏
一方、チャイナブルーのマネージャー、絵幡誠一さんは、50年以上の歴史を誇る老舗フランス料理店、銀座レカンとの共演に、当初は大きなプレッシャーを感じていたと明かします。
「本当に一緒にやっていけるのだろうかという不安が一番にありました。しかし、お正月明けにチャイナブルーの陳料理長とともに食事へ伺い、お料理はもちろん、レカンのチームの皆様と触れ合った時に『この人たちと一緒にやっていきたい』と強く惹きつけられたのです」と絵幡さん。その後、幾度も試作を重ねる中で、両チームの距離は自然と縮まり、まるで“いつも一緒に働いている仲間”のような一体感が生まれていったといいます。
2005年の開業準備段階からコンラッド東京を支え続けてきた絵幡さんは、日本料理「風花」で約19年にわたり経験を積み、2年前にチャイナブルーへ異動。長年ホテルの“おもてなし”を見つめてきたからこそ、チャイナブルーならではの魅力にも深い想いを抱いています。

エントランスから厨房がほのかに見える設計は、ゲストの期待感を高め、店内に足を踏み入れると、高さ8メートルの開放的な空間と、東京湾やレインボーブリッジを望む景色が広がります。そこにはラグジュアリーでありながら、どこか温かくアットホームな空気が流れています。
また、香港出身の陳料理長が手掛ける料理は、香港の伝統的なエッセンスを軸にしながら、日本の旬の食材を巧みに融合させたモダンチャイニーズ。甘鯛や鰻、黒毛和牛など、その時季ならではの食材を用い、日本人の感性にも寄り添う繊細で優しい味わいへと昇華しています。
「イタリア料理やフランス料理、中国料理といったカテゴリーはあっても、食材をお客様にお届けするということに国境はありません。中華とフレンチ、そしてスペインワインがここ東京で一つになる。それを皆様にお届けできることが楽しみで仕方ありません」。
ディナー開始前、絵幡さんは高揚感を隠せない様子でそう語ってくださいました。
テネリフェのテロワールと中国料理の親和性
今回のスペシャルディナーの全体構成を統括し、その実現をリードした
コンラッド東京エグゼクティヴ ソムリエ、森本美雪氏
そもそも、なぜ今回はフレンチ同士ではなく、中国料理とのコラボレーションだったのでしょうか。森本ソムリエは、テネリフェ島の気候風土をその理由に挙げます。 標高差により多様な微気候(マイクロクライメイト)を持つこの島の火山性土壌から生まれるワインには、ミネラル由来の塩味やスパイスの要素がしっかりと表現されます。そのため、フランス料理よりもスパイスや油を巧みに操る中国料理に合わせることで、ワインとの相性の良さがより如実に現れるのだそうです。このソムリエとしての的確な視点が、今回の特別なディナーの輪郭を形作りました。
印象深いペアリング①:野趣あふれる「猪ラーメン」
✕ マイペ・デ・タガナナ(Maipé de Taganana)2023

コースの終盤に登場した「猪のダブルコンソメ 猪叉焼 光麺(通称:猪ラーメン)」は、森本ソムリエが「特に楽しんでいただきたい」と推す一皿でした。杉田シェフがこだわった猪のダブルコンソメに、チャイナブルーの香港麺と猪のチャーシューを合わせた見事な合作です。 これに寄り添うのは、森本ソムリエが険しい道のりを経て訪れた命がけのブドウ畑の名を冠したワイン、「マイペ・デ・タガナナ(Maipé de Taganana)2023」です。「猪のようなジビエ特有の野趣あふれる風味に対し、このワインが持つハーブやオレンジピールのようなニュアンス、そして少しワイルドなタンニンやスパイスの要素が見事に調和します。今回のイベントで一番初めに決まったペアリングです」と森本ソムリエ。猪の力強いコクとワインの爽やかさが見事に共鳴していました。
命がけの畑─マイペ・デ・タガナナ この特別な畑から生まれる
ボデガス・ビニャティゴの”シングル・ヴィンヤード(単一畑)”シリーズ
マイペ・デ・タガナナ 2023(MAIPÉ DE TAGANANA)
また、森本ソムリエは今回の試みについて次のように語ります。「『テネリフェのワインを飲みたい』『レカンの新しいアプローチを見たい』『チャイナブルーの料理が好き』という3つの視点からお客様にお集まりいただき、大変光栄です。銀座レカンの皆様は50年の歴史がありながらもスタッフが若く、柔軟性が非常に高い。私たちの中国料理の要素に寄り添いつつ軽やかに仕立て、それでいてフレンチの伝統を見事に表現してくださいました。チャイナブルーのスタッフにとっても、多くの学びがある素晴らしい機会となりました」。
印象深いペアリング②:「和の食材」とテネリフェ島ワインの調和

銀座レカンCBO(チーフ・ブランド・オフィサー)近藤佑哉氏。
ビニャティゴファミリーからテネリフェ島より届けられたお土産のトランクとともに。
もう一つ、大変心惹かれたのがメインディッシュの「恵鴨 モリーユ茸 春野菜」です。クラシックなフランス料理をベースに和の食材を取り入れる杉田シェフは、この鴨肉に「八丁味噌」を使ったソースを合わせました。 近藤ソムリエは、「日本の伝統的な食材である八丁味噌の風味も、ビニャティゴのワインとしっかりと調和します。その見事な相性を皆様に感じていただきたい」と語ります。

恵鴨 モリーユ茸 春野菜
杉田シェフ自身も、ビニャティゴのワインが持つ「上質なミネラルと綺麗な酸味」を感じ取り、料理の酸の立たせ方や構成をワインのミネラルに寄り添うように工夫したそうです。 鴨肉の深い旨味と味噌のコクを、ワインの美しい酸が優しく包み込む。近藤ソムリエがテネリフェ島で体感した自然の生命力が、一皿とグラスの中で見事に表現された、非常に繊細で計算されたペアリングでした。
会場では、ペアリングに合わせて供される5種類のワインを前に、ビニャティゴ創設者のフアン・ヘススと、醸造家でありブドウ栽培も担う息子ホルヘ・メンデスが、それぞれのワインについて背景や造りの特徴を丁寧に解説。料理の説明とともに、その一つひとつにゲストが興味深く耳を傾ける姿が印象的でした。また、ビニャティゴファミリー自身も、その場で展開されるペアリングの妙を味わいながら、料理とワインの調和に舌鼓を打つひとときとなりました。
ホルヘは、「全体として、ワインは中国料理とフランスの影響を受けた料理のどちらにも、予想以上に見事に寄り添っていたと感じました。特に、ワインに見られる塩味のニュアンス、しっかりとした高い酸、そして香りの精度の高さが、その相性を支えていた印象です。
また、ソムリエの森本さん、近藤さんの仕事は非常に完成度が高く、料理全体としてもとてもプロフェッショナルな構成でした。マリアージュの中では、『ホタルイカ、アスパラガス、ミント』の一皿が最も印象に残りました。一方で、点心、『二種海老蒸し餃子』も意外性があり非常に興味深く、さらに、銀座レカンとチャイナブルー、それぞれの2種のメインディッシュはいずれも完成度が非常に高く、強く印象に残る内容でした。」と、今回のペアリングディナーの完成度に感動し、高く評価していました。
ホタルイカ、アスパラガス、ミント

二種海老蒸し餃子
火山島のワインがひとつにした、三つの美食文化
会場を包んだ、興奮と感動

この日のディナーで提供されたボデガス・ビニャティゴのワインセレクション
右から:2024 Pét Nat de Listán Blanco、2024 Rosado de Listán Negro、
2024 Ensamblaje Blanco、2022 Lomo de la Era、2022 Laderas de Teno
宴が深まる頃、筆者もフアン・ヘスス氏とともに、ご挨拶を兼ねて会場を回らせていただきました。会場には、料理とワインが生み出す高揚感とともに、この夜ならではの特別な一体感が漂い、ゲストの皆様からは自然と感嘆の声が聞こえてきます。
なかでも印象的だったのは、長年美食に親しまれている常連のお客様のひと言でした。
「カナリア諸島のワインは初めてでしたが、『ロモ・デ・ラ・エラ(Lomo de la Era)』は、まるでブルゴーニュのグラン・クリュかと見紛うほどの深みがありました」―。
一流が創り上げた、奇跡の一夜

この日のディナーに向けては、新年以降、両レストランで7回以上にわたる試作と試食が重ねられたといいます。当日は銀座レカンが店舗を休業し、20名のメンバーがコンラッド東京へ集結。迎えるチャイナブルーのメンバーとともに、総勢40名に及ぶプロフェッショナルが一堂に会する光景は、まさに圧巻でした。


【Restaurant Information】
コンラッド東京 中国料理「チャイナブルー」
〒105-7337 東京都港区東新橋1-9-1 コンラッド東京 28F
Instagram:@conrad_tokyo
銀座からほど近い汐留に位置し、浜離宮恩賜庭園、レインボーブリッジ、東京湾のパノラマビューを見渡す、和のモダンデザインがコンセプトのコンラッド東京。スタンダードルームでも都内最大級の48㎡を誇る広々とした291の客室、活気溢れる4つのレストランとバー&ラウンジ、最新鋭の設備を備える大・中・小の宴会施設、スパ、プール、フィットネスが備わった、1,400㎡の面積を有する「水月スパ&フィットネス」などの充実した施設を擁しています。『フォーブス・トラベルガイド』、『コンデナスト・トラベラー』、『トラベル・アンド・レジャー』など、国内外で常にトップの評価を獲得し続けています。
銀座レカン
〒104-0061 東京都中央区銀座4-5-5 ミキモトビル B1・B2
Instagram:@ginza_lecrin
1974年創業のガストロノミーフレンチレストラン。「宝石箱」を意味する店名の通り、シャンデリアが輝く洗練された空間で、伝統と革新を融合させたフランス料理、約23,000本を誇る豊富なワインコレクションと上質なサービスを提供し、日本のフレンチ界を牽引する存在として、長年、多くのエグゼクティブに愛されている。「ミシュランガイド東京」にて2024年より2年連続で一つ星を獲得し、2026年にはセレクテッドレストランとして掲載。
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スペインワインと食協会は、「スペインワインと食文化を囲み、高品質なスペインの魅力を皆さまと体感すること」を原点に、一過性ではないスペインブームを築く活動をしています。今後もスペインワインと食を真ん中に、新しい取組みや情報をご提供して参ります。
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Ikumi Harada 原田郁美
Journalist & Creative Director
スペインワインとガストロノミーを専門とするジャーナリスト。広告代理店でデザイナーとして経験を積み、クリエイティブな視点と戦略的思考を身につける。2005年のスペイン留学を機にワインと食文化に魅了され、以来その研究と発信に力を注いでいる。2009年から日本およびアジア市場におけるスペインワインの輸出・プロモーションに携わり、2011年「スペインワインと食協会」を設立し普及と市場発展に努めている。2012年よりプリオラートでワイン造りに取り組み、2024年に自らの初ヴィンテージを発表。2025年からバルセロナの国際ワインコンクール「Barcelona Wine Test」の運営メンバーとして活動。WSET® Level 3、Spanish Wine Specialist(ICEX認定)。山口県出身。
@ikumiharada

