ガリシアで最も小さく、最も若い産地 ― DOモンテレイ
ガリシアで最も小さく、そして最も若いDO ――それがモンテレイです。
この産地は、ポルトガルと国境を接するオウレンセ県に位置し、まさにその隣国との近さから、特に赤ワイン用の多様な土着品種が受け継がれてきました。世代から世代へと脈々と伝えられてきた伝統的なワイン造りが、古木のブドウから個性的で唯一無二のワインを生み出しています。

この地域を形づくるのは、広大なカスティーリャの高原気候をもたらす大河ドゥエロ、そして大西洋の影響を伝える支流タメガ。その二つの気候の影響が、モンテレイならではの多様性を決定づけています。その質の高さゆえ、かつてモンテレイのワインはポルトのワインと肩を並べ、さらにはアメリカへも輸出されていたほどです。

この地に伝わる伝統品種のひとつがドニャ・ブランカ(Doña Branca/Blanca)。別名も多く、ドニーニャ、オーブン・グロ、ボアル・デ・プラガ、マルヴァジア・デル・ビエルソなど数多くのシノニムを持つ、歴史ある白ブドウです。現在ではガリシアの流行品種ともいえるゴデーリョやメンシアが優勢ですが、モンテレイは昔から、二つの気候の狭間にある独自性と、複数品種をブレンドしたワイン造りで知られてきました。
ゴデーリョのワインは、ふくよかで果実の甘みを感じさせる余韻があり、酸はやや穏やか。メンシアは果実味に富み、色合いも濃く、心地よい酸を備えています。しかし、私にとってモンテレイの真骨頂は、やはりパロミノやドニャ・ブランカ、アルバリーニョ、トレイシャドゥーラといった品種を組み合わせたブレンドワインにあります。複雑で奥行きがあり、豊かな風味を楽しませてくれるのです。
―Salud, そしてもちろんMucho Amor.
フアン・ムニョス – あなたのソムリエ
Juan Muñoz フアン・ムニョス
Master Sommelier
ワイン、飲料、グルメ食材の国際的な権威。スペイン、ラテンアメリカにソムリエ協会を設立し、各国の名門大学で教育に携わる。現在、アカデミー・オブ・サムリエ(ASMSE)会長兼、El Corte Inglésの専門学院で教鞭をとる。14冊の専門書を発表、「フランス農事功労賞」を授与されたスペイン唯一のソムリエ。カタルーニャ最優秀ソムリエ(1987年)、スペイン最優秀ソムリエ(1993年)、欧州最優秀ワイン・美食コミュニケーター(2007年、ロンドン)など、受賞歴多数。ブラジル世界大会ファイナリスト(1992年)。スペイン、メキシコ、アルゼンチン、ウルグアイなどでソムリエ育成を先駆け、世界のワイン文化発展に貢献している。
@juanmunozramos
DOモンテレイ試飲会レポート、バルセロナより

DOモンテレイは、ガリシア州オウレンセ県の南東部に位置する比較的新しい原産地呼称(DO認定は1994年)。栽培面積は約800ヘクタールと小規模ですが、その分、生産者との距離感も近く、土地の個性を素直に映し出したワインが楽しめます。
スペイン国内での知名度はまだ高くありません。消費者の間では「名前は聞いたことがあるけれど詳しくは知らない」という印象が強い一方、プロフェッショナルの間では「将来性のある産地」として注目を集めています。特にゴデーリョの人気の高まりとともに、モンテレイの知名度は着実に上昇しています。
テロワールが生む個性
モンテレイを流れるタメガ川は、最終的にドウロ川に注ぎ込むため、海洋性の影響を受けつつも内陸的な気候も併せ持ちます。年間2200時間以上の豊富な日照と昼夜の寒暖差により、果実味と酸のバランスが優れたブドウが育ちます。土壌は粘土質、砂質、スレート質と多様で、ワインに表情の幅を与えています。
白ブドウではゴデーリョを中心に、トレイシャドゥーラやアルバリーニョも栽培。赤ではメンシアが主役ですが、スオソンやカイーニョ・ティントといった土着品種も存在感を放っています。
ゴデーリョの魅力

近年、バルセロナのレストランやバルでもグラスワインとして提供されることが増えたゴデーリョ。人気の高まりを実感します。
アルバリーニョほどシャープすぎない酸が親しみやすく、魚介はもちろん、鶏肉や野菜料理まで幅広い食事に寄り添います。香りは青リンゴや洋梨、レモンや柑橘の皮、ほのかに白桃や白い花のニュアンスも感じられます。口に含むとフレッシュな果実味が広がり、ほのかな苦味とミネラルが全体を引き締め、魚介料理はもちろん、鶏肉や野菜の軽めの料理まで幅広く合わせやすい仕上がりです。アルバリーニョとゴデーリョ、そしてトレイシャドゥーラをブレンドしたキュヴェも印象的ででした。
メンシアの可能性

赤ワインはメンシア主体が多く、赤い果実味たっぷりのチャーミングなタイプから、樽熟成によって厚みと複雑さを増したものまで多彩。どれも重すぎず、溌剌とした酸が特徴の「軽やかなワイン」でした。
掘り出し物を見つける喜び
今回の試飲会はプロ向けということもあり、会場にはワインショップや飲食店関係者、ジャーナリストの姿が多く見られました。熱心にメモを取りながらテイスティングを行う参加者の表情からは、そのコストパフォーマンスの高さもあって、実際のリストに採用したいという本気度が伝わってきました。
モンテレイのワインは、「親しみやすさ」と「地域性の表現」が両立しており、スペインワインのトレンドである“土着品種とテロワールの再発見”を体現しています。レストラン関係者にとっては、まさに「掘り出し物のワイン」と出会える喜びを提供してくれる試飲会となりました。
さらに注目すべきは、「モンテレイ・スペリオル(Monterrei Superior)」です。これはD.O.モンテレイが設定した品質ラベルで、地域の土着品種を守りつつ、高品質なワイン造りを奨励するためのもの。条件として、ブドウの85%以上がモンテレイ固有の品種であることが求められます。この認定によって、生産者は地域性を明確に表現したワイン造りに取り組むことが促され、消費者にとっても「モンテレイらしさ」を楽しめる一つの指標となっています。
まだ訪れたことのないオウレンセのブドウ畑を思い浮かべながら、グラスの中にその土地の空気や香りを感じる―まるでガリシアの小さな町を旅しているかのようなひとときでした。光を浴びる畑の風景や、そよぐ風、土の香り...そんな風景を思い浮かべながら、ぜひモンテレイのワインを楽しんでみられてはいかがでしょう。
Ikumi Harada 原田郁美
Journalist & Creative Director
スペインワインとガストロノミー専門ジャーナリスト。大学卒業後、広告代理店でデザイナーとして、クリエイティブな視点と戦略的思考を培う。2005年から留学を機にスペイン食文化に魅了され、その研究に人生を捧げる。2009年から日本・アジア市場でスペインワインの輸出とプロモーションに従事。2011年に「スペインワインと食協会(AGE)」を創設し、クリエイティブディレクションや執筆を通じてスペイン食文化の普及と市場拡大に寄与している。2012年、プリオラートでワイン造りを始め、2024年に自らの初ヴィンテージをリリース。2025年より、フアン・ムニョス氏と共同企画「Spanish Lifestyle」連載開始。WSET® Level 3, Spanish Wine Specialist(ICEX認定)。山口県出身。
@ikumiharada