スペインを探して、地中海に出会う。~表参道・CICADAで味わう、料理とワインの時間
CICADAには、少し思い入れがあります。表参道に移転する前、西麻布にあった頃に何度か伺いました。 そして表参道へ移転し、今回の訪問は、たしか6回目。今年初めてのCICADAです。そのため前回に伺ったのはどんな感じだったかなと、久しぶりに友人を訪ねるような気持ちでした。 表参道の通りから一歩、路地へ入ります。緑に囲まれた空間が現れると、東京の真ん中なのに、そこだけ時間の流れが少し違うように感じられます。 店内に入った瞬間から、よりCICADAらしい時間が始まります。 こちらを見ながら、スタッフの方が次々に声をかけてくださいます。たとえ何か作業をしていても、一度手を止めて、きちんと顔を見て挨拶をしてくれる。それがひとりではありません。レセプションからテーブルにつくまで、何人ものスタッフが、それこそ10人以上です。 ほんの数秒のことです。けれどその数秒が、とても心地いい。「今日ここで過ごす食事の時間が、あなたにとって素敵なひとときになりますように」そんな気持ちまで一緒に手渡されたように感じるからです。 もちろん、そんな言葉を実際に言われたわけではありません。でも、その自然な所作から、そうした思いが伝わってくるのです。 先のとおり私は今年初めて伺いましたが、スタッフの方々にとっては、きっといつもの一日です。毎日、多くのゲストを迎え、何度も同じように挨拶をしていると想像できます。 それなのに誰ひとりとして「慣れた仕事」という感じを一ミリも見せず、目の前のゲストにきちんと向き合う。心を込めてゲストを迎える。 レセプション、キッチン、サービスも。店全体で、同じ温度のサービスが保たれているのです。CICADAのプロフェッショナルを久しぶりに目の当たりにしました。レストランのサービスというのは、こういう小さな瞬間の積み重ねなのかもしれません。 約50年前に建てられた建物をリノベーションしたという空間には、ヨーロッパ・コロニアルの趣があります。バーやテラス、店内のシャンデリアまで、食事の時間を楽しむための舞台が整えられています。 CICADAの公式ストーリーによれば、その料理の発想はスペインやモロッコを中心とした環地中海料理。ひとつの国の料理に限定するのではなく、地中海を囲むさまざまな食文化を自由に行き来します。 それが、この店の面白さなのだと思います。 料理が運んでくれる、小さな旅 今回いただいたのは、冷たい前菜、温かい前菜、魚料理、そして肉料理。そしてCAVA、白ワイン、ロゼワイン、カフェ。 料理をいただいて、改めて印象に残ったのが、塩とスパイスの使い方でした。どちらも決して料理を覆い隠すのではなく、素材の味を引き出しながら、もう一段奥行きをつくっている。 ひと口食べて、「この塩味加減がいいな」、「このスパイスの香り、好きだな」と、いちいち感じてしまうのです。大袈裟で派手な驚きではなく、食べ進むほどにわかってくる存在感。 そして、スペイン産の食材が皿に登場すると、やっぱり嬉しくなります。今回は、マンチェゴチーズと、ハモン・イベリコ・ベジョータ。 東京で見つける、スペインワインと食を訪ねる連載だから、ということもありますが、見慣れた名前がメニューの中にあるだけで、心が少し弾みます。 東京で食事をしているのに、味覚だけがスペインへ向かっていく。ワインを合わせると、その感覚はさらに強くなる。 「スペイン料理」だけではないからこそ CICADAは、スペイン料理専門店ではありません。だからスペインを入口にして、地中海というもっと大きな食文化の世界へ入っていける気がします。 料理から料理、白ワインからロゼ、そしてひとつの皿から次の皿へと、それぞれの味わいを楽しみながら、テーブル全体ではひとつの流れができていきます。 今回は、支配人の木村さんをご紹介いただきました。 料理人やスタッフの皆さんの仕事について、取材もしていないのに久々の短い訪問だけで多くを語ることはできません。けれども入店したときのお声かけと、あたたかい視線。料理が運ばれてくる絶妙なタイミング、ワインが注がれる時間、そして食事をしている人たちの生き生きとした表情を見ていると、この店が長く愛されてきた理由の一端が感じられます。 料理だけではなく、そこで過ごす時間そのものを楽しませてくれる。それがCICADAなのだと思います。 西麻布から、表参道へ 西麻布時代に何度か訪れたCICADA。その記憶があるからこそ、表参道の店を訪れるたびに、少し不思議な気持ちになります。 場所は変わったし、建物も違う。けれど料理を前にしてワインを飲み、誰かと話しながら過ごす時間には、どこか昔の記憶につながるものがある。 ...