未来のワイン"ウルテリオール" × "Riedel Glass" テイスティングセミナー
11月18日、「Riedel Glass × ULTERIOR Tasting セミナー」が、リーデル青山本店にて正光社ワイン事業部主催で開催されました。本セミナーでは、英国誌『Decanter』にて「スペインワインの未来を担う若き醸造家10人」に選出された、ヴェルム(VERUM)オーナー醸造家エリアス・ロペス・モンテロ氏を迎えた貴重な機会となりました。 Bodegas Verum 醸造責任者 エリアス・ロペス・モンテロ マドリード、リオハでワイン醸造を学び、地元トメジョーソでキャリアをスタート。2002年、リベラ・デル・デュエロのAALTO、2004年、南アフリカで研鑽を積む。2005年トメジョーソに戻り、家族と共にボデガス・ヴェルム設立、20代でオーナー醸造責任者に就任。2007年、プロジェクト「ウルテリオール」を始動。ラ・マンチャの絶滅危惧品種の復活のため、失われかけた土着品種の植栽を始める。夏はスペインで、冬は南半球のアルゼンチンやチリでワインづくりに勤しむ。英国の「Decanter(2018年3月)」誌で、「スペインワインの将来を築いていく若き醸造家10人」の1人に選ばれる。ドイツのビルトインキッチン機器メーカー ガゲナウの『Respected by GAGGENAU 2021』で、世界最優秀ブドウ栽培家に選ばれた。 ナビゲーターを務めてくださったのは、株式会社HUGEのコーポレートソムリエである石田博さん。石田さんは2014年、ウルテリオールシリーズが誕生したヴェルムのワイナリーを訪問されており、その豊富な見識をもとに、カスティーリャ・ラ・マンチャ地方の郷土料理のエッセンスも巧みに取り入れたペアリングをご提案くださいました。写真右:株式会社HUGE コーポレートソムリエ 石田 博氏。 国内外のコンクールで数々の優秀な成績を収め、世界の舞台でも高く評価される、日本を代表するソムリエの一人。豊富な経験と確かな審美眼を活かし、ワインの魅力を多彩に伝えるだけでなく、ペアリングやテイスティングに関する著書も手がけ、幅広くワイン文化の普及に貢献している。約40店舗以上におよぶHUGEグループのワインリストを監修し、北参道の「LE BISTRO」のワインリストは Star Wine List of the Year 2025 にてシルバーを受賞。さらに2024年にはフランス農事功労章を受章し、その功績は国際的にも高く評価されている。 右から二番目: アカデミー・デュ・ヴァンの人気講師の林麻由美先生。2014年、VERUMを訪問された経験をお持ちです。右から三番目: ウルテリオール醸造家 エリアス・ロペス・モンテロ氏。左: 筆者。当日、通訳およびVERUM社のマーケティング担当としてご一緒に登壇させていただきました。 「ウルテリオール」とは、ラテン語で「未来」を意味します。気候変動が進む中で、ラ・マンチャのテロワールと伝統をいかに次世代へとつないでいくか─この大きなテーマに向き合いながら、アルビージョ・レアル、ティント・ベラスコ、モラビア・アグリアといったユニークな土着品種の復興や、100年以上前から先祖に伝わる素焼きの大がめ(ティナハ/アンフォラ)などの醸造法を駆使し、唯一無二の個性をもつワインが生まれています。 セミナーの冒頭では、総面積約19万㎢を誇るスペイン最大のワイン産地、カスティーリャ・ラ・マンチャにおける近年のワイン産業の変革について、エリアス氏自ら詳しく解説してくださいました。続いて、これまでのラ・マンチャのイメージを大きく塗り替えるウルテリオールシリーズ誕生の背景やコンセプトが語られ、その後、石田博ソムリエによる丁寧なワイン解説とテイスティングコメントへと進みました。 醸造についてはエリアス氏のコメント、テイスティングやペアリングについては石田ソムリエの言葉を中心に、短くまとめてご紹介いたします。 ■ウルテリオール アルビージョ・レアル(白・2018)醸造・特徴ステンレスタンクで発酵後、アンフォラ(ティナハ・デ・バロ)で熟成。SO₂最小、軽い濾過のみ。透明感と立体感を備え、熟成向きの構造を持つ。 テイスティング花の蜜っぽさを含んだ華やかさも感じられる。味わいは柔らかく厚みがあり、噛めるようなテクスチャー。高い酸が輪郭を引き締め、余韻には旨苦味とほのかな塩味が寄り添う。酸が高いにもかかわらず疲れを感じさせず、料理との適応力の高さが特徴。 ペアリング野菜や白根菜、シャモやほろほろ鳥、ビゴール豚など噛み応えのある肉類、ベーコン、シャルキュトリー。鍋料理(猪鍋、しゃぶしゃぶ、スープ系)にも好適。 ■ウルテリオール ナランハ(オレンジ・2023)醸造・特徴アルビージョ・レアルを皮ごと発酵、黒ぶどうモラビア・アグリアのマストを15%ブレンド。低温発酵後2ヶ月スキンコンタクト(アルビージョ・レアルのみ)、アンフォラで4ヶ月熟成。フリーランのみ使用。ステレオタイプな「早飲みのラ・マンチャ」を覆す、熟成の魅力を備えた一本 テイスティングマンダリンオレンジ、紅茶、黄色い花、わずかにワックス。酸は穏やかでまろやか、細かいタンニンがスムース。先の白よりも酸は穏やかでまろやかな口当たり。細かいパウダリーなタンニンが心地よく、全体としてスムース。温度は14~16℃が最適。 ペアリング発酵調味料を使った和食(西京焼き、塩麹)、牛肉や子牛のカルパッチョ、軽い焼肉(炭火よりガス火)。ホルモンなど中間的な質感の肉と好相性。 ■ウルテリオール ガルナッチャ(赤・2020)醸造・特徴50%全房、50%除梗でステンレスタンク発酵の途中で果汁と果皮を攪拌する。その後、アンフォラで熟成することで、透明感と軽やかな色調を維持しつつ、ピュアで立体感のある質感を獲得している。 テイスティング香りは赤系果実が中心。スグリ、ザクロ、野苺などのフレッシュな果実に、キャラウェイや甘草といったスイートスパイスが寄り添う。紅茶やコノハ(落ち葉)、木の皮のような淡いアーシーさが奥行きを与え、全体として清涼感と緻密さが際立つ。味わいは口に入れた瞬間から繊細で軽やか。余韻にかけてしなやかなボリュームが広がる。タンニンはきめ細かく、ピュアでクリーンな構成が貫かれている。 ペアリング調理法は「シンプル」「塩をしっかり当てる」「鉄板でサッと火入れ」がベスト。炭焼きや燻香の強い調理よりも、素材の滑らかな質感を生かす火入れが向く。アンフォラ熟成が味わいの純度と繊細さを高めるため、料理側も塩の当て方が非常に重要。調理過程で塩を適切に使うことで、ワインとの相乗効果が大きく高まる ■ウルテリオール マスエロ(=カリニャナ 赤・2019)醸造・特徴乾燥した暑い畑で栽培。徹底したグリーンハーヴェストで健全な果実を確保。100%除梗、50%ステンレスタンク、50%フードル発酵後、アンフォラで10ヶ月熟成。 テイスティングガルナッチャよりも明確に色調が濃く、グラデーションも力強い。香りは黒系果実(ブラックベリー、ブルーベリー)を中心に、血液や生肉のようなニュアンス、ドライハーブ、スパイスが寄り添う。凝縮感がありながら“ウルテリオールらしい”ピュアさが軸にある。味わいは凝縮しつつも柔らかく、余韻にかけてじわりと広がる穏やかなフィニッシュ。カリニャンらしい酸とタンニンは健在だが、攻撃的にならず、優しく包み込むような印象。 ペアリング豚肉とインゲン豆の煮込み(ポチャス)、牛ほほ肉の赤ワイン煮込み、内陸部の伝統的煮込み料理など、温かさ・ほっとする料理との共鳴が大きい。フレッシュさも残るため、重すぎない煮込みが特に好相性。 ■ウルテリオール グラシアーノ(赤・2018)醸造・特徴ラ・マンチャの温暖な気候で完熟が可能。90%アンフォラ、10%古樽熟成。果実の純度とノーブルな質感を重視。 テイスティング艶があり、黒みを帯びた深い色調。カシス、ブルーベリーといった濃密な黒果実に、スイートスパイスやベーキングスパイスが上品に重なる。樽のニュアンスは控えめで、香りに立体感をもたらす役割に徹している。味わいは、スムーズで上質。土着品種にはしばしば見られる素朴さやラステックさはなく、ノーブルで洗練されたキャラクターが際立つ。シリーズの中でも特に“高貴さ”を感じさせるスタイル。 ペアリング家庭料理よりもレストラン向けの“格のある”料理が似合う。・牛フィレ・子羊フィレ・鹿のロースト(ジュニパーベリーを効かせたソースなど)スパイスを用いたソースとの相性も良く、赤身肉のロースト料理を強く引き立てる。...