12月3日、The Arts Fusion by L’écrin(ジ・アーツ フュージョン・バイ レカン / 上野)にて、クローズドイベント「Next Gen × Spain:スペインワインの未来をひらく夜」を開催させていただきました。Z世代の若手からベテランまで、異なる世代が一つのテーブルを囲み、スペインワインを飲みながら、これからのスペインワインをどのように伝えていくかを自由に語り合う時間は、筆者自身にとっても数多くの学びと発見に満ちたひとときとなりました。
参加者の皆さまが持ち寄ったスペインワイン10本を並べて。日本未入荷の熟成CAVAやリアス・バイシャスの赤白、プリオラートの赤白、ペネデスの自然派ワイン、アリベス・デル・ドゥエロの希少品種、さらにテネリフェ島の過酷な畑で育つ自根ワインまで、普段味わえない多彩なラインナップをフランス料理とともに楽しむ、特別なひととき。
開催のきっかけ
この会を企画した理由は、大きく3つあります。
1つ目は、今年バルセロナで開催した「バルセロナワインテスト・アーバン」の成功です。若い世代がワインに触れ、味わい、学び、共有する場を生み出せたことは、大きな希望となりました。日本でもスペインワインを通じて、次世代に魅力を伝える場づくりが必要だと感じたことが原動力となりました。
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2つ目は、テネリフェ島でお話を伺った、レカングループのCBO兼ビバリッジディレクター・近藤佑哉さんの存在です。伝統を守りつつ、新しい価値を創り出す近藤さんの姿勢に深く心を動かされ、ジ・アーツ フュージョン・バイ レカンという空間が生む“芸術と食の融合”を、スペインワインとともに体験していただきたいと思いました。
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3つ目は、恵比寿ガーデンプレイスの人気ワインショップ WINE MARKET PARTY(ワインマーケットパーティー) でスペインワインを担当されている、石川もえさんとの出会いです。22歳でワインの世界に飛び込み、ソムリエエキスパートを取得された彼女のひたむきな情熱に触れ、若い世代ならではの視点を学ばせていただきたい—そう強く思うきっかけとなりました。
当日のテーマ
- 若い世代に、これからどうワインを楽しんでもらうか
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他業態や次世代へ、スペインワインの魅力をどう伝えていくか
昭和7年に建築された上野駅旧貴賓室の気品ある雰囲気を生かしつつ、アールデコの美意識と現代的なデザインを融合させ、70年の歴史を経て「The Arts Fusion by L’écrin」として生まれ変わった、アーティスティックな空間で、参加者の皆さまに「芸術 × 食 × スペインワイン」を体験していただきながら、 フランス料理とスペインワインが自然に調和し、リラックスした雰囲気の中で新しいご縁が広がっていくのを感じました。

2000年生まれの若き日本人画家、真田将太朗氏によるペインティングが施された店内。
色彩と緻密な構図が織りなす、まるでアートの世界に身を置いたかのような独創的な空間。
世代を超えた対話が生んだもの
日本でもスペインでも、ワインを楽しむ層はどうしても同世代、あるいは上の世代に偏りがちです。Z世代の方にイベントで出会う機会は決して多くありません。私自身もスペイン留学をきっかけにワインに魅了されたのは28歳、ワイン業界に入ったのは30代からでした。
今回ご参加いただいたのは、Z世代からベテランまで、ソムリエ、ワインバイヤー、ワインジャーナリスト、インポーター、ワイン生産者、カメラマン、起業家といった多彩なバックグラウンドを持つ方々です。そうした皆さまと語り合う中で、「次世代へいかにワイン文化をつなげていくか」というテーマのヒントとなる、貴重な示唆を伺うことができました。
ワインサロン「R」のソムリエ、門脇望夢さん(左)と、宮内庁大膳課で50年近くお勤めになった新田晋さん(右)。
最後に(感謝の気持ちを込めて)
今回の「Next Gen × Spain」は、未来へ向けた小さな“プレイベント”ではありましたが、皆さまのお力添えにより、想像以上に豊かな対話が生まれる貴重な時間となりました。ご参加くださいました皆さま、そしてご協力いただいたレカングループの皆さまに、心より御礼申し上げます。
ワインは文化であり、コミュニケーションであり、人と人をつなぐ“架け橋”のような存在です。同じテーブルを囲むだけで自然に心が開き、国や世代の壁も溶けていく——ワインの持つあたたかな力と可能性を改めて感じた夜でした。
また、ワインづくりや文化、ぶどう畑を未来へつなぐためには、造り手がバトンを渡すように、飲み手も次の世代にその魅力を伝えていくことが大切だと感じています。スペインワインの魅力をどう広め、楽しんでいただくかは、次世代とのつながりにかかっている—筆者自身も、これからもワイン会やイベントを通して、皆さまとご一緒に楽しみながら、その方法を探していけたらと思います。
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レストランのご紹介
■The Arts Fusion by L’écrin(ジ・アーツ フュージョン・バイ レカン / 上野)
2025年3月3日、ブラッスリー・レカンは「The Arts Fusion by L’écrin」としてリニューアルオープンしました。「芸術」と「食」の融合をテーマに、上野という土地のアートの空気を取り入れ、訪れる人に“体験”としての食の時間を提供するレストランです。料理長 末竹範大氏のフランス料理は、クラシックとモダンの世界を軽やかに行き来する味わいで、食とアートが織りなす独自の世界観を楽しむことができます。ディナータイムにはBYO(ワインのお持ち込み)も無料で受け付けており、ワイン愛好家にとって嬉しすぎるほどの環境。ワイン会や特別なひとときにもぴったりのレストランです。
パテ・アンクルートアジア大会で4位に輝いた末竹範大料理長が手がける、繊細かつ深みのある味わいのパテ・アンクルートは、この店を訪れるならぜひ味わいたい逸品です。
■リカーショップ LE.(上野)
ジ・アーツ フュージョン・バイ レカン 上野に併設されるリカーショップ「Le.」は現在改装中で、来年1月にリニューアルオープン予定です。上野駅構内という抜群のアクセスで、ご自宅用にもギフトにも立ち寄りやすく、レストランへのBYOにもぴったり。
さらに、職人(ワイン生産者やソムリエ)としての“本質”と“遊び心”を調和させた世界観が、どのようにセレクトや空間デザインに落とし込まれるのか—その完成が今からとても楽しみです。
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The Arts Fusion by L'écrin
📍 〒110-0005 東京都台東区上野7-1-1 アトレ上野レトロ館1F 1020
@the_artsfusion_by_lecrin

Ikumi Harada 原田郁美
Journalist & Creative Director
スペインワインとガストロノミーを専門とするジャーナリスト。広告代理店でデザイナーとして経験を積み、クリエイティブな視点と戦略的思考を身につける。2005年のスペイン留学を機にワインと食文化に魅了され、以来その研究と発信に力を注いでいる。2009年から日本およびアジア市場におけるスペインワインの輸出・プロモーションに携わり、2011年「スペインワインと食協会」を設立し普及と市場発展に努めている。2012年よりプリオラートでワイン造りに取り組み、2024年に自らの初ヴィンテージを発表。2025年からバルセロナの国際ワインコンクール「Barcelona Wine Test」を主催している。WSET® Level 3、Spanish Wine Specialist(ICEX認定)。山口県出身。
@ikumiharada