名門「銀座レカン」のCBO兼ビバリッジディレクターとして、レカングループの経営と飲料を統括する日本を代表する若手トップソムリエの一人、近藤佑哉さん。大学卒業後に銀座レカンに見習いとして入社。その後、ホテルニューオータニ「トゥールダルジャン東京」で研鑽を積まれ、2019年にソムリエとして銀座レカンに復帰。2020年に同レストランのシェフ・ソムリエに就任され、2021年にはグループ全体の飲料統括マネージャー、2025年からはCBO(Chief Brand Officer)として活躍されている近藤さん。数々のソムリエコンクールでの受賞歴もあり、日本を代表する若手ソムリエとして注目されています。
そんな近藤さんと、10月にスペイン・カナリア諸島のテネリフェ島を訪れました。近藤さんにとって初めてのスペインが、大西洋に浮かぶ常春の島、テネリフェという、かなりレアな体験。島独自の土着品種やテロワール、海と山が織りなす風土を実際に体感された経験について、最終日にお話を伺いました。
現場で学び、世界で磨かれたソムリエ道
原田
近藤さんが、今はソムリエだけでなく、老舗フレンチレストラングループの経営にも従事されていることにとても興味を持ちました。どのような道のりで今のポジションにたどり着かれたのでしょうか。
近藤
大学では経営を学びましたが、飲食業に興味がありフランス料理の世界に入りました。レストランマネジメントを理解するために、まずは現場で経験を積みたいと思い、洗い場やサービスマンとして働く中でソムリエの機会をいただきました。
ワインの魅力に惹かれ、勉強を重ねるうちにコンクールにも参加しました。世界各地のワイン産地で出会う仲間や文化に触れる中で、この道を深めたいと強く思うようになりました。現在は銀座レカンの経営責任者として働きながら、グループ全体のワインや飲料の管理も担当しています。
テネリフェ島で感じた土着品種の魅力

原田
滞在中、地元の方々や文化との交流で印象的だったことはありますか。
近藤
テネリフェの人々は島を心から愛しており、ワインはもちろん食材や文化を深く尊重しています。その姿勢がワイン作りにも反映されていて、自然や伝統を大切にする文化を肌で感じることができました。
原田
これまでに訪れたヨーロッパや世界のワイン産地と比べて、テネリフェの特徴はいかがでしたか。
近藤
フランス、イタリア、ベルギー、アメリカ、オーストラリアなども訪れましたが、テネリフェは独特です。海に面した立地から急斜面の畑が広がり、海と山の両方の影響を受ける非常に特徴的なテロワールを持っています。世界的にも珍しい地形だと感じました。
ビニャディゴで見た、テロワール重視のワイン作り

原田
ビニャディゴを訪問された際、オーナーや醸造家、スタッフとの交流で印象に残ったことはありますか。
近藤
まず驚いたのは生産量の少なさです。土着品種を大切にし、その個性を最大限に引き出すワイン作りをされていました。利益よりもテロワールを重視する姿勢が非常に印象的でした。
原田
試飲されたワインで特に印象的だったものは。
近藤
シングルビンヤードのシリーズです。単一品種畑ごとの個性が表現されており、同じリスタン・ブランコでも畑ごとに味わいが異なります。テネリフェのテロワールの魅力を最大限に感じられるシリーズです。
火山性土壌と海風が生む個性

原田
火山性土壌がワインに与える影響はいかがでしたか。
近藤
火山性土壌由来のミネラル感は白・赤ワインに共通して感じられます。さらに海の影響で塩味のようなミネラルも加わり、両者が絶妙に融合しています。こうした特徴は日本の食材とも合わせやすく、ペアリングの幅を広げてくれます。
原田
日本市場におけるカナリア諸島ワインの魅力はどこにあると思われますか。
近藤
土着品種のユニークさと、テロワールを反映したエレガントなスタイルです。日本の豊かな食文化や気候にも合うワインだと思います。白ワインならシーフード、滑らかな赤や白はオリーブオイルを使った料理との相性も良いと思います。
原田
今後、日本での普及には何が必要でしょうか。
近藤
この魅力をより多くの方に知ってもらう機会を作ることが大切です。生産量が少なく貴重なワインですが、ビニャディゴのようにテロワールを見事に表現しているワインを、日本でも多くの方々に届けていきたいです。
最後に

テネリフェ島では、Tim Atkin MWから「カナリーワインのレジェンド」と称えられるビニャディゴの創立者で醸造家のフアン・ヘスス氏とともに、島の人々に人気の伝統料理レストランや市場、ディープな食体験を楽しむことができました。最終日には自宅でプロ顔負けのパエリアまでご馳走してくださり、近藤さんは何度も「スペインは食事が美味しい」と感嘆されていました。
近藤さんのテイスティングコメントひとつひとつから、その鋭い感性とセンスを感じました。老舗「銀座レカン」の伝統を守りながら、新しい挑戦を果敢に行う姿勢。感度の高い若者の心を掴む力が、会話を通じてひしひしと伝わってきました。
近藤さんがCBOを務めるレカングループは、フレンチの名店「銀座レカン」のほか、ビストロやワインショップなどを展開し、その成功ノウハウを生かした飲食店へのコンサルティングも行っています。新しい感性と視点を持つ近藤さんのこれからに、ますます目が離せません。
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銀座レカン
📍 〒104-0061 東京都中央区銀座4-5-5 ミキモトビルB1
The Arts Fusion by L'écrin
📍 〒110-0005 東京都台東区上野7-1-1 アトレ上野レトロ館1F 1020
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Ikumi Harada 原田郁美
Journalist & Creative Director
スペインワインとガストロノミー専門ジャーナリスト。大学卒業後、広告代理店でデザイナーとして、クリエイティブな視点と戦略的思考を培う。2005年から留学を機にスペイン食文化に魅了され、その研究に人生を捧げる。2009年から日本・アジア市場でスペインワインの輸出とプロモーションに従事。2011年に「スペインワインと食協会」を創設、スペイン食文化の普及と市場拡大に寄与している。2012年、プリオラートでワイン造りを始め、2024年に自らの初ヴィンテージをリリース。2025年より、バルセロナにて国際ワインコンクール「Barcelona Wine Test」を主催予定。WSET® Level 3, Spanish Wine Specialist(ICEX認定)。山口県出身。
@ikumiharada