“Esencia ― スペインの暮らしに、そっと触れる旅。”
観光でも移住でもない、ちょうどその間。
旅のかけらがそっと日常に溶け込む瞬間を、
言葉にのせて届けます。
街のカフェからの香り、料理人のまなざし、オリーブ畑に吹く風。
スペインの食と文化に出会うたび、
人生を少し見つめ直したくなる。
この旅の記録が、あなたの「次の一歩」を照らしますように。

Esencia ジローナの夜に、香りの本質と出会った。

旅のなかで舌が慣れはじめた3日目、完食の歓びと、記憶に残る香りに包まれて・・・。


Esencia ─ 本質をめぐる旅」では、食を通して感じられる価値観の少し先に出会う瞬間を綴っています。

今回の舞台は、カタルーニャ地方の美しい町·ジローナから。

プレスツアーにて連日のガストロノミーなフルコースの中、驚くほど自然に、心と体に馴染んでいったディナーがありました。


体と心に、ちょうどいい料理たち


プレスツアーが始まってから、毎食がフルスケールの美食体験。

ありがたいことにスペインらしい豪快なポーションと味の奥行きに魅了されながらも、完食できたのは初日だけでした。私達は一般の方々より強靭な胃袋をもつメンバーであるにも関わらず。

しかし3日目の夜、ジローナのレストランでは、たしかに何かが違いました。


ジローナで21時。店の外観

 


まずは前菜2品。

サラダ

パテ

 

サラダ、パテと、それぞれ素材の生かし方、調味料の加減、香りの立たせ方が実に繊細。

口にした瞬間に「これは最後まで行ける」と直感しました。

 

野菜のグラタンは、とろけるように優しく、野菜だけということが信じられないほど旨みがあります。

野菜のグラタン

 

魚料理は、皮の火入れも塩加減も絶妙。身もふっくらジューシーな仕上がりです。

 

肉料理では思わず「これぞ、体が受け入れるボリューム」と感じたほど。付け合わせのジャガイモまでしっとりホクホクしていました。

肉料理

 

 

そしてデザートにたどり着いた時、ふと気づいたのです。

誰一人、途中でフォークを置いていない!笑

 

 

 

プロとしての直感が震えた、オリーブオイルとの出会い


この夜、料理の背景にある香りの本質に心から感動したのは、実は、あるエキストラバージン·オリーブオイルでした。

私は職業柄、というより幼い頃から香りにとても敏感です。

とくにオリーブオイルについては、オリーブオイルソムリエの勉強をしたこともあり、わずかなニュアンスにも反応してしまいます。
それは、おそらく一般的には気づかれないような香りの奥に隠れている香り。ごくごく微細なネガティブ要素、たとえば保存環境による変化にまで反応してしまう、少しやっかいな嗅覚ともいえます。


スペイン産はもちろん、スペイン産でなくとも上質なオイルが存在するのは理解しているし、実際に食べて理解しています。その味わいには、心から信頼できるものがたくさんあります。わざわざ書くまでもありませんが、自分が輸入しているオイルだけが良い、というつもりはまったくありません。

実際、レストランで100%ネガティブ要素を感じることがないオイルに出会うことも、何度かありました。

ただ正直なところ、やはりそれは稀です。私にとっては。

スペインでも日本と変わらず、レストランに入るたび、必ずオリーブオイルをテイスティングします。ほんの一滴で、その日のテンションが決まることもあるほど。
プロの視点から「これは間違いない」と、心から思えるオイルに出会える機会は、数多くのレストランを回っていても、そうそうあるものではありません。

だからこそ、このジローナのレストランで出会ったオイルには、本当に驚きました。
ひと口含んだ瞬間に、背筋がすっと伸びてくるような感覚になり、座り直して、もう一度、全集中して味わったほどです。(全集中とはいえ、周りの方がそこまで気づかない程度に。笑)

 

 

澄んだグリーン、マイルドでフルーティーな味わい。心地よくポリフェノールが追いかけてくるような後味。そして何よりも透明感のある香り。

これは、誰かを持ち上げるためでも、比較するためでもなく、ただ「素晴らしいものに出会った」という純粋な驚きと喜びとして、残しておきたい記録です。


とにかく、あったのです。

この夜、このレストランに。

その香りを嗅いだ瞬間、「これは……!」と体が反応しました。

味わいのバランス、そして何より透明感のある雑味のなさ

自分が輸入しているもの以外で「このオイルなら、輸入できる」と思うほどの出会いは、レストランの食事中に初めてです。

 

 

偶然ではなく、導かれるように出会ったオイル。

それはまるで、素材の背景や土地の哲学が詰まった香りのメッセージでした。



小さな奇跡のような一夜に


その夜、料理をつくった人々、迎えてくれた空間、プレスツアーの仲間、すべてがちょうどよく、無理なく調和していた気がします。

食べ終えた瞬間、「ああ、また来たい」と心から思えた場所。

それこそが、“Esencia=本質のあるレストランだと感じました。


プレスツアーのメンバーと通訳の方と

 

 

余白のまとめ


料理をただ「味わう」のではなく、「香りを聴く」ような感覚になった夜。

その体験が、どこかで誰かの旅のヒントになりますように。

そして、あなたがもし、この町を訪れるとき、この一本のオリーブオイルの香りが、記憶をそっと照らしてくれますように。


 

Information

 [ レスタウランテ・ビンタヘ Restaurante Vintages]

HPhttp://www.vintages.cat/

instagram@vintagesgirona

https://www.instagram.com/vintagesgirona/


 


Ikumi Harada

Tomoko Kato 加藤智子
Editor-in-chief 

福岡出身のフードジャーナリスト、インポーター。1997年シェフやワイン販売からキャリアを積み、「アクアパッツァ」にて広報・PRを担当後、輸入・販売の()LA PASIONを設立。2011年「スペインワインと食協会」も創設し、スペイン食文化とライフスタイルを軸に、数々のプロモーションイベントや講座をプロデュース。特に「スペインワインと食大学」は、ワインペアリングの人気プログラムへ成長。オリーブオイルソムリエ®、食育講師として、生産者、インポーター、レストラン、消費者をつなぐ役割を担う。  アンダルシア州政府の招聘を受け、スペインにてプレス取材を担当後、複数の州や生産者からオファーが相次ぎ現地取材が続いている。Webマガジン「LOHASPAIN」の編集長も務め、スペインワインと食文化の魅力を国内外に発信中。

@ tomoko_kato_lapasion