“Esencia ― スペインの暮らしに、そっと触れる旅。”
観光でも移住でもない、ちょうどその間。
旅のかけらがそっと日常に溶け込む瞬間を、
言葉にのせて届けます。
街のカフェからの香り、料理人のまなざし、オリーブ畑に吹く風。
スペインの食と文化に出会うたび、
人生を少し見つめ直したくなる。
この旅の記録が、あなたの「次の一歩」を照らしますように。

Esencia 特別編 プレスツアーの余白に〜マドリッドとジローナ、2時間の街歩き

Esencia ─ 本質をめぐる旅」は、旅と日常のはざまにある風景や出会いを綴る連載です。

今回の記事は、プレスツアーの合間にほんの少しだけ生まれた、2つの街での余白の時間の記録。


■ マドリッド

喧騒の中の静けさ、2時間の歴史散策


バラハス空港からお迎えのバスでホテルまで30分。

5ヶ月ぶりの街に降り立ったその日、午後の光は驚くほど柔らかかったことを覚えています。

目に入る風景が、一瞬で幸せな気分にしてくれました。

短い時間であっても、身体がこの街の空気に順応していくのを感じます。



この日は風が少し冷たく、でも空が澄んでいてどこまでも青かったです。

何度訪れても、マドリッドには「また歩きたくなる通り」があります。歴史的な重みと、日常の軽やかさ。そのどちらもが同居しているこの街の魅力に、またひとつ、心を奪われました。

スペインの中でも、ここは特に歴史が街に溶け込んでいて、観光地でありながら遠い過去、確実にここにいたであろう彼らの「日常の延長線」に足を踏み入れたような気持ちになれました。

 


 ■ ジローナ

物語と香りに満ちた、サン·ジョルディの日の街


ジローナにあるノエルアリメンタリア(Noel Alimentaria)の取材からバスに揺られて約一時間。18時から21時までジローナの中心地を観光しました。

ジローナの旧市街を歩いたこの日、423日はカタルーニャの人々にとって特別な祝日「サン·ジョルディの日」。
バラと本を贈り合うこの伝統的な祭りは、街のあちこちにささやかな物語の気配を運んできます。石畳の通りには、バラの花束を手にした人々が行き交い、本屋や露店が広場にまで並びます。
誰かのために選ばれた一冊や、一輪の赤いバラが、街をやさしく彩っていました。

 

 

中世の街並みに溶け込むようにして行われるこの祭りには、騒がしさではなく、静かな祝福のような空気が流れています。
知らずに訪れた街の、その日だけの表情。
ほんの2時間の滞在でも、その特別な空気を肌で感じられたことが、何よりの贈り物になりました。

 


「旅」と「余白」


プレスツアーはどうしてもスケジュールが詰まりがちだけれど、こうした余白の2時間が、

むしろ旅の本質を浮かび上がらせてくれることがあります。

効率よく「何を見るか」ではなく、どんなふうに感じたかを記録する。

それが「Esencia」の目指す旅のかたちです。


いつか誰かが、マドリッドやジローナを肌で感じたくなった時、

このエッセイが小さな手がかりになりますように。

 

 

Tomoko Kato
Editor-in-chief 

福岡県出身のフードジャーナリスト、インポーター。
1997年からシェフやワイン販売などの経験を積み、調理師免許を取得。青山の老舗レストランではワインのトップセールスとして活躍し、その後リストランテ「アクアパッツァ」にて広報・PRを担当。2009年、スペイン産オリーブオイルに一目惚れして「LA PASION」を立ち上げ、今年で16年目を迎えるインポーターとして多くの顧客に恵まれている。2011年には「スペインワインと食協会」を設立し、30回以上のプロモーションを手がける。スペイン・アンダルシア州政府から、世界一のオリーブオイル展示会にプレスとして正式招聘され、取材・執筆を担当。特に「スペインワインと食大学」は告知と同時に満席になる人気講座として好評を博している。現在はWebマガジン「LOHASPAIN」の編集長として、スペイン食文化やワインの魅力を国内外に発信中。