【レポート】「アクアパッツア」季節を語る一皿と、オリーブオイル
6月中旬、雨の気配すら忘れるような暑さの平日。 都会のど真ん中にもかかわらず大通りを曲がるとすぐにグリーンが溢れる空間に佇むレストラン「アクアパッツア」にお伺いしました。 この日いただいたのは、季節のスペシャルコースです。前菜からデザートまで、コンセプトが貫かれた構成、そしてペアリングされたワインとともに深く魅了されました。皿に盛られる素材のひとつひとつは、全国各地の信頼できる生産者から届く珠玉の食材ばかり。中には、名前を聞くのも初めてのものや、百貨店の棚ではまず出会えないような、希少で個性的なものも少なくありません。「これほど忙しい日々の中で、どうやって見つけてくるのだろう?」と、つい私は、何度も考えてしまったほどです。 今季のオイルのティスティングのとき(4月) 料理人の目と舌、そして人とのつながりがなければ辿り着けないはず。まさにプロの料理人だけが出会える選ばれし素材たちが、何度も登場しました。 花ズッキーニの儚さ、乳清で和えられた冷製フェデリーニの清涼感、鱧の旨味が際立つサルサヴェルデ。すべてが「いま、この瞬間」を最大限にときめかせてくれます。そして確かな共通点に気がつきました。それはエキストラバージン・オリーブオイルの存在を大切にしてらっしゃること。 テーブルに運ばれた一皿一皿には、私たちの通販サイトでご紹介している各種オイルが丁寧につかわれていました。オイルが料理をまとめたり、時には前に出て主張したり、はたまた素材を引き立てる影の演出者として機能していたり。 川合シェフの温かなご配慮で、各料理につかわれたオリーブオイルのボトルを、ソムリエの方が毎回テーブルまで運んでくださいました。実は、オイルのボトルと料理を一緒に撮影したいという希望は、私だけのもの。他のお客様にはその必要がない中で、わざわざその都度、ボトルを添え、私が一瞬で写真を撮り終えるのを待ち、すぐにキッチンへと戻る。この静かで美しい動作を、ソムリエは何度も繰り返してくださいました。頼んでもいないのに、ここまでしてくださることがただただ嬉しくて、心がほどけるような思いでした。 「こうしたら、きっと喜んでくれるだろう」と、誰かが気づいた小さな期待をそっと先回りして形にする。そういう方達だと知っていましたが、そんな気づきと優しさにあふれたレストランチームの姿勢に、改めて深く胸を打たれました。 チームの細やかな連携と、食に真摯に向き合う姿勢がにじんでいて、今も心に強く残っています。 1皿目 花ズッキーニのフリットと空っ風生ハム、サラミ サクッとした衣の中に、夏の余韻がいっぱいの花ズッキーニ。生ハムとサラミの塩気が、心地よく口内を引き締める。スプマンテとともに食欲をスタートさせてくれた。 2皿目 吉田牧場の乳清で和えた冷製フェデリーニ アオリイカとウイキョウ添え おだやかな塩気と乳清のミルキーさが絶妙なバランスで絡む冷製パスタ。シャクっとしたアオリイカ、香りがたまらないウイキョウ。繊細な風味に合わせた白ワインの透明感が、料理の構造を一層引き立てる。オイルの香りも静かに溶け込んでいる。 3皿目 天草産鱧のフリット サルサヴェルデ 揚げ物でありながら、驚くほどふんわり軽やか。サルサヴェルデの酸味と鱧の旨味がオイルと見事に調和。ここでもワインが、魚のニュアンスと完璧に寄り添う。 4皿目 トリッパ、ガツ、豚ハラミの煮込み スカマルツァアフミカートのオーブン焼き 上品な野性味と複雑な旨味が絡み合う皿。燻製チーズの香ばしさと煮込みの深みが、滑らかで上品ながらタンニンのある赤ワインと絶妙なコントラストを描く。重厚な余韻に、オリーブオイルが丸みと広がりを添える。 5皿目 駿河湾の赤海老とジロールのタリアテッレ 濃密な甲殻の旨味、香りたかいジロール茸。季節が色濃く現れる一皿にも、先ほどのIDDAロッソの赤ワインがよく合う。オイルが、素材同士をつなぐ潤滑油のように機能しているのが印象的。 6皿目 キンメダイのアクアパッツァ 名物のアクアパッツア。目の前で鮮やかにデクパージュ(お魚の取り分け)してくださる。スプーンとフォークだけで、骨まで取り、箸を使う以上のテクニックは、毎回のように見入ってしまう。ふっくらと火が入ったキンメダイに、滋味深いスープ。ここで用いられたオイルは、魚介の香りと複雑に絡み、まさに“命を吹き込む役割”を果たしていた。合わせたワインもブロンドのような品格で、素材の声をグッと引き出してくれた。 7皿目 青森県産銀鴨 胸ともものロースト 鴨の脂が持つ旨み、香ばしさ、そしてしっとりした肉の質感が最大限に感じられるような火入れ加減に感激した。さらにオイルの使い方にシェフの配慮が光る。赤ワインとともに、このランチのクライマックスをしっかりと締めくくった。 デザート チーズケーキと夏香...