第16回スペインワインと食大学
「スペイン料理:アヒージョ」Vol.1
~スペインにおいてのアヒージョとは。日本ならではのアヒージョ×しょうゆ、「黒アヒージョ」を深掘りする~
アヒージョにしょうゆを加えるとどうなるのでしょうか。
スペイン料理としてすっかり日本に定着したアヒージョ。その料理が、しょうゆという日本の食文化と出会ったとき、どのような可能性が生まれるのかを皆さんともっと深掘りしたい。
そんな問いから生まれた今回のスペインワインと食大学。当日は満席の参加者を迎え、おかげさまで大きな盛り上がりの中でイベントを終えることができました。

きっかけは、ご当地グルメとの出会い
昨年、「黒アヒージョ」コンテストの審査員としてお声かけいただいたことが、この料理との最初の出会いです。
オリーブオイルとにんにくで食材を煮込むスペイン生まれの料理、アヒージョに日本のしょうゆのニュアンスを重ねた一皿。千葉県では、新しいご当地グルメとして盛り上がっていると聞き、興味を惹かれました。
コンテストには、街のレストランからホテルまで、さまざまな料理人が参加。ジャンルもスペイン料理にとどまらず、中華やイタリアンなど、それぞれの解釈で「黒アヒージョ」をつくり、エントリーしていました。
そして最終審査。実際に味わったとき、思わず驚きました。
しょうゆの旨味が加わることで、どこか懐かしさを感じる味になる。けれど同時に、オリーブオイルのコクと重ることで、これまでにない新しい味わいが生まれているのです。
しかも、料理はとてもシンプル。だからこそ、食材の組み合わせ次第で表情が変わり、そこには無限の可能性が広がっています。
この料理は、アレンジという言葉では収まりきらない。
日本ならではの食文化として、もっと深く探ってみたい。
そう思ったことが、今回のイベントを企画する出発点でした。
黒アヒージョコンテストのレポート「黒アヒージョ:日本発、新たなご当地グルメの可能性」はこちら

スペイン人講師が語る「本場のアヒージョ」
セミナー前半では、スペイン大使館からルベン・フェルナンデス氏によるアヒージョの解説からスタートしました。ルベン氏と、コンテストでご一緒したとき、「黒アヒージョ」に、とても興味をお持ちだったからです。
ルベン氏は、2009年から日本に在住し、日本の文化も理解しています。また料理にも長く関わっていた方。今回はとくに、生まれ育ったバルセロナでの経験を思い出してもらい、本場での視点を重点的にお話ししていただきました。
皆さんが真剣に耳を傾けていたのが印象的です。

スペイン大使館 ルベン・フェルナンデス氏
黒アヒージョの可能性
講座の後半では、私から黒アヒージョの可能性についてお話ししました。
アヒージョの材料はとてもシンプル。だからこそ、素材の質がそのまま味に表れますし、背景を知るとさらに見え方が変わります。
昨年のコンテストでも、千葉県の食材をふんだんに生かしたレシピが発表されています。肉を主役にした力強い一皿、魚介の旨味を引き出した繊細な一皿、野菜を主役にした優しい味わい、アヒージョと言われなければわからない見た目ながら、アヒージョの材料がしっかりと使われている一皿、など、その多様性と、アレンジの奥行きに、私は心から感激しました。

一流のミシュランシェフが手掛けることもできる一方で、「今夜の夕飯にしよう」と、ご家庭で気軽に作ることもできます。私たちの愛するしょうゆは、多彩な調味料。主役になったり、下味に使ったり、仕上げに使ったりできます。

今回の料理を担当したマドリッド出身のシェフ、フェリペ氏は、その点をとても大切にしていました。
シェフが提案した「黒アヒージョ」は、少し意外なスタイルで登場しました。それはまるでしゃぶしゃぶのように楽しむ一皿です。
まず、刺身用の天使の海老を用意。しょうゆは名産地として知られる千葉県産を選び、海老を軽く漬け込みます。
海老の頭は、にんにくをきかせたオイルで香ばしく焼き上げます。こうして旨味を引き出したオイルがこの料理のベースに。
最後は、熱々のオイルに海老をさっとくぐらせていただく。しゃぶしゃぶのように、自分の手で仕上げながら味わうスタイルです。
オリーブオイルやにんにくと同じように、しょうゆも料理の骨格をつくる大切な要素。見えない部分ですが、特別コースの前菜の下味にもしょうゆを使い、その他、なす、キャベツ、ネギも千葉県産を選んでいたそうです。
ごまかしのきかない料理だからこそ、素材の選択には細心の注意が払われていました。
乾杯とともに始まった食体験
講義が終わり、いよいよ実食です。この日は、本イベントを後援してくださったスペイン国営のセルバンテス文化センターの館長ビクトル・アンドレスコ氏にもご参加いただきました。

(セルバンテス文化センターの館長ビクトル・アンドレスコ氏:右)
乾杯の挨拶では、スペイン料理が日本で愛されていること、そして食文化が国境を越えて広がっていくことへの期待が語られました。温かな言葉に、会場は大きな拍手に包まれます。そしていよいよ料理が運ばれてきました。
ユニオンリカーズさんのCAVAで乾杯し、実食がスタートしました。

ユニオンリカーズ株式会社 代表取締役 アルフォンソ・マルティン氏
ユニオンリカーズ代表のアルフォンソ氏も駆けつけてくださり、流暢な日本語でワインを説明してくださったのです。
今回のテーマが「黒アヒージョ」ということで、アンダルシアが発祥と言われているアヒージョに合わせ、アンダルシア産ワインのシェリーもご用意くださいました。
スペインワインが初めての参加者からもとても好評でした。シェリー酒がつくられるソレラシステムを鰻屋さんの継ぎ足しだれに例えるなど、さすがプロフェッショナルです。

黒アヒージョにペアリングしたシェリー
この日のワインは以下です。
-CAVA Clos la Soleya Brut
-CAVA Clos la Soleya Rosado
-シェリー manzanilla La Gitana
-白ワイン Tempranillo blanco
-赤ワイン Ramón Bilbao edición Limitada
この日のためのスペシャルメニュー
料理は、シェフがこの日のために考えた特別コースです。

フェリペ・ゴメスシェフ(左)
まずはタパスの盛り合わせ。スペイン料理の楽しさが詰まった一皿に、会話も自然と弾みます。

そしていよいよ、黒アヒージョが登場。ひと口食べた瞬間、参加者の方から声が上がります。
「軽いですね」
「でも味はしっかりしています」
「これは家でもやってみたい」

オイル料理のコクはありながら、後味はすっきりしています。しょうゆが入ることで味の輪郭が整い、素材の旨味がよりはっきり感じられるのです。
食のプロたちも参加
この日は、一般の方々はもちろん、他店のレストランスタッフ、ワインのインポーター、ワインスクールに通う方、食関係の方々もプライベートでご参加くださっていました。

食関係の皆さんは、いっそう味に敏感な方々です。

その方々からも
「これは面白いですね。ワインにもよく合います」
「食べてみて、こんな良い味わいにびっくりしました」
という、嬉しいお声が次々と聞こえてきました。

一方で、今回もスペインワインと食大学のイベントに初めて参加される方もいらっしゃいました。お席に伺うと、「楽しくて、おいしくて!」と、大絶賛してくださって。

また毎回、お一人で参加の方々もいらっしゃいます。しかし実食が始まる頃には、いつも最初からまるで皆さんがお知り合いのように、どのお席でも会話が弾んでいる様子が見受けられます。

専門的な話と、実際の食体験。
その両方があることで、皆さんそれぞれの楽しみ方が生まれていたように感じます。

食文化は、出会いから生まれる
アヒージョはスペインの料理。しょうゆは、世界からも注目されている発酵の文化であり、日本の食文化の中心にあるものです。
どちらかを主役にするのではなく、それぞれの魅力を理解したうえで重ねていく。そうして生まれたのが「黒アヒージョ」です。

オリーブオイルの香りに、しょうゆの旨みが合わさる。そこには、スペインと日本、二つの食文化があります。
この料理は、ジャンルを選ばす、どんな食材も受け入れる懐の広さをもっています。和・洋・中のどこにでも寄り添えるので、ワインのおつまみみにもなれば、子どもたちのおかずにもなる。そんな多様性をもちながら、それぞれが味わいたい世界観を大切にできる料理。だからこそ、いまの時代にも無理なくフィットするのかもしれません。

まさに料理のジャンルを超えて、さまざまなライフスタイルに寄り添う料理です。
世代を問わず、多くの人に楽しんでもらえる。ご当地グルメとして広がっていくのも、きっと自然な流れなのだと考えています。

最後に
今回のイベントを通して、「黒アヒージョ」という料理の可能性を改めて強く感じました。食材を変えれば、新しい組み合わせはいくらでも生まれます。一人でも味わえて、大勢でも楽しめますから、どんなシーンも対応できます。
人のアイディアは尽きません。これからもこのような料理の面白さや奥深さを、皆さんと一緒に探究していける大学でありたいと思います。
これは昨年のレポートにも書きましたが、この度の大学開催を通して、いまその気持ちはさらに強くなっています。

次回日程だけで参加希望が
この日は最後に、次回4月13日開催「スペインワインと食大学」(*)の日程だけをお知らせしました。
まだ細かい内容も決まっていませんでしたが、それにもかかわらず、参加者のおよそ3分の1の方が、その場で「次回も参加したい」と、申し出てくださいました。
(*4/13大学は、先週金曜配信のニュースレターで申込スタートし、翌日には満員御礼、現在はキャンセル待ち数名です。)
スペインワインと食大学のイベントとして、講義、ワイン、料理はもちろん、ご参加くださる方々との出会いという、この時間でしか体験できないことを丸ごとを楽しんでいただけたのだと、うれしく思っております。

スペインワインと食協会プロデュース「スペインワインと食大学」とは
企業と一般の人々のプラットホームとなるオトナの学び場「スペインワインと食協会(=スペ食大学)」を開催しています。
多くの人に知られていない「スペインワインと食」を見る、聞く、味わう、体験と、五感を使い楽しみながら、その業界の一流講師による貴重な講義を体験できます。ここでしか得られないリアルイベントならではの仲間との出会いは一生の宝物です。
スペインワインと食協会とは
スペインワインと食協会は、「スペインワインと食文化を囲み、高品質なスペインの魅力を皆さまと体感すること」を原点に、一過性ではないスペインブームを築く活動をしています。今後もスペインワインと食を真ん中に、新しい取組みや情報をご提供して参ります。
スペインワインと食大学運営 スペインワインと食協会(日本事務局/(株)LA PASION加藤 スペインオフィス/原田)
WEB:spainwinefood.org E-MAIL: info@spainwinefood.org

Tomoko Kato 加藤智子
Journalist (Spanish Food Culture & Wine) & Editorial Producer
福岡出身のジャーナリスト/スペイン食文化・ワイン専門、編集プロデューサー。料理人、ワイン販売、広報・PRを経て、輸入・販売の(株)LA PASIONを設立し、17年にわたりインポーター業を継続。2011年「スペインワインと食協会」を創設し、スペイン食文化とライフスタイルを軸に多くのイベントや講座をプロデュース。ジャーナリストとしてスペイン州政府や企業団体からの招聘を受け、現地展示会や生産者プレスツアーに毎年参加するほか、行政機関や企業団体のイベント企画・発信も行っている。協会公式サイトおよびWebマガジン「LOHASPAIN」は編集長として、コンテンツ企画・構成・執筆を一貫して手がけ、スペインワインと食文化の魅力を国内外に発信中。オリーブオイルソムリエ®、Spanish Pantry(ICEX認定)。
@ tomoko_kato_lapasion