輸入停止の現実と、4工場視察で見えた熟成の思想
本稿は、筆者が昨年、スペインを訪れ、4つの生産現場を取材した記録をあらためて総括するものです。
当時現地で見聞きしたことが、いま日本で起きている出来事と静かにつながっています。
熟成庫の扉が開いた瞬間、ガラッと空気が変わります。
甘く澄んだ香と静かな緊張感が漂うのです。自然に委ねているように見えて、実際のところ人が細部まで管理しています。
伝統とは、ありのままの自然ではなく、しっかりと設計されて続いていました。

昨年末、日本ではスペイン産生ハムの輸入が停止されました。理由や範囲の詳細は、農林水産省の公表資料をご確認ください。
→ 農林水産省「スペインからの豚肉等の輸入一時停止措置について」
https://www.maff.go.jp/j/press/syouan/douei/251129.html
現地で見た風景と、日本市場の現実。その距離は小さくありません。だからこそ、いま改めて問う必要があります。ハモン・セラーノは、何によって支えられているのか。

昨年訪ねた4つの工場はいずれも、スペイン・ハモン・セラーノ協会(Consorcio del Jamón Serrano Español)規定のもとで生産しています。制度、管理、そして時間。ブランドの強度は、この三層で決まります。

スペイン・ハモン・セラーノ協会
https://spainwinefood.org/consorcio-del-jamon-serrano-1/

なぜ「ここ」でなければならないのか
ハモン・セラーノは、豚もも肉と塩のみで仕上げられます。工程は厳格に定められ、検査も重ねられます。
自由度の少なさは制約であると同時に、品質の骨格となるのです。伝統食品”というより、制度でしっかりと守られたブランドと言えます。現場を歩くうち、その印象は強まりました。

3つの生産者と委託専業ハモン・セラーノ製造企業、それぞれの思想
■Embutidos y Jamones España e Hijos, S.A.(エンブティードス イ ハモネス エスパーニャ)ハモン・セラーノ職人が生み出す味わい
香りが満ちるスライスルームと、職人の技と24時間稼働するパッキングライン
→ 詳細レポートはこちら
( https://spainwinefood.org/consorcio-del-jamon-serrano-2/)


■NOEL ALIMENTARIA(ノエル・アリメンタリア)|グローバルに拡大する家族企業
世界の食卓へ:スペインの魅力を届ける使命
→ 詳細レポートはこちら
(https://spainwinefood.org/consorcio-del-jamon-serrano-3/)


■COSTA BRAVA MEDITERRANEAN FOODS(コスタ・ブラバ・メディテラニアン・フーズ)「豚を無駄にしない」という矜持
徹底した監査体制が築く、信頼の基盤
→ 詳細レポートはこちら
(https://spainwinefood.org/consorcio-del-jamon-serrano-4/)


■Pernils Llémena(ペルニルス・ジェメナ)古来の知恵を現代に再現
“一枚の美学”を支える人の手。輸出産業としての覚悟がにじみます。
→ 詳細レポートはこちら
( https://spainwinefood.org/consorcio-del-jamon-serrano-5/)


輸入停止が突きつけたもの
制度に守られたブランドであっても、国際情勢や検疫判断によって流通は止まります。
それは、品質そのものへの評価とは別の次元で起きる出来事に他なりません。
だからこそ重要なのは、今回のような現地での工程と思想を私たちが言語化し続けることではないでしょうか。
どのように作られ、何を守り、どのような検査を経ているのか。
説明できるブランドだけが、これからも信頼を維持できると考えています。
農林水産省の公表情報を踏まえつつ(リンク)、私たちメディア側もまた、背景を正確に伝える責任があります。

最後に
皿の上にスライスされて盛り付けられるハモン・セラーノ。
しかしその背後には、素材の見極め、人の手作業、熟成の時間が積み重なっています。
輸入停止という現実は、ブランドの脆さを示したのではありません。
伝統は、守られているのではありません。
守り続ける意思によって、今日も更新されています。

関連リンク
【取材】本場スペイン産生ハム、ハモン・セラーノの魅力(Jamón Serrano)
【取材】ハモン・セラーノ職人が生み出す味わい「Embutidos y Jamones España e Hijos, S.A. 」
【取材】家族の絆から世界市場へ~ノエル(NOEL ALIMENTARIA)の挑戦
【取材】「豚を無駄にしない」という矜持と、世界戦略のリアリズム(COSTA BRAVA)
【取材】味で語る委託専業Pernils Llémenaが支える“匠の技”
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Tomoko Kato 加藤智子
Journalist (Spanish Food Culture & Wine) & Editorial Producer
福岡出身のジャーナリスト/スペイン食文化・ワイン専門、編集プロデューサー。料理人、ワイン販売、広報・PRを経て、輸入・販売の(株)LA PASIONを設立し、インポーター業は17年目を迎える。2011年「スペインワインと食協会」を創設し、スペイン食文化とライフスタイルを軸に多くのイベントや講座をプロデュース。ジャーナリストとしてスペイン州政府、企業団体や生産者からの招聘を受け、現地展示会や生産者プレスツアーに参加するほか、取材、イベント企画を行う。協会公式サイトおよびWebマガジン「LOHASPAIN」は編集長として、コンテンツ企画・構成・執筆を手がけ、スペインワインと食文化の魅力を国内外に発信中。GPEスペイン・ワイン・テロワール・ディプロマ、オリーブオイルソムリエ®、Spanish Pantry(ICEX公認)。