その一杯は、これまでのラ・マンチャワインの記憶を確実に塗り替えるものでした。
本セミナーは、4月16日にLEGRAND Filles et Fils Tokyo(東京都港区南麻布5丁目1-27)にて、セパージュ株式会社主催により開催されました。同社がいま注力する生産者のひとつが、このボデガス・ヴェルムです。

広大で量産的、そうしたラ・マンチャ地方の従来のイメージを前提にグラスを傾けた方ほど、違和感に似た驚きを覚えたのではないでしょうか。
そこにあったのは、驚くほどクリーンながらしっかりと存在感のある味わい。過剰な装飾をとっぱらい、純度だけで成立している、そんなワインでした。
今回のセミナーでは、白3種、赤2種、計5種をテイスティングしました。
①アイレン・テラ 2024
②ブランコ・クパージュ 2024
③ラス・ティナダス・アイレン・デ・ピエ・フランコ 2022
④センシベル・ロブレ・パルセラス 2023
⑤ラス・ティナダス・センシベル 2022

いずれも共通して感じられたのは、この生産者エリアス氏が“高品質ワインのパイオニア”と評される理由です。
その根底にあるのが、テロワールの緻密な理解と設計です。
畑は標高約700メートルに位置し、近くを流れるGUADIANA川の影響によって昼夜の寒暖差が生まれます。この環境が、ワインに不可欠な上質な酸をしっかりと保持させています。この地特有の強風は、ブドウの健全な生育を促し、病害リスクを抑える要素として機能しています。加えて、土壌には石灰岩層が広がっています。
ここはかつて湖の底であり、ヨーロッパでも最古の地表のひとつとされる場所。この複雑な地質が、味わいに明確な骨格を与えています。
また古木のアイレン種を維持している点も見逃せません。大量生産の象徴とされてきた品種を、あえて高品質のものとして再定義している点に、このエリアス氏の哲学が表れています。

5種の中でもとくに印象的だったのが、白ワイン「ラス・ティナダス・アイレン・デ・ピエ・フランコ 2022 」です。1950年からフィロキセラの影響を受けていない区画に由来し、ドライファーミング(無灌漑)で栽培されています。
特筆すべきは、2022年ヴィンテージ。

味わいは驚くほど印象的。干ばつに見舞われた困難な年にできたワインであることを耳にするまで想像もできないと思います。
この味わいを実現するその背景には、的確な判断があったのです。
収穫を早めることで果実のバランスを維持し、葉が焼けて落ちてしまいブドウに直射日光が当たりすぎることから守りました。さらにこの畑は、ブドウ樹同士が水分を奪い合わないよう、1ヘクタールあたり約1600株という低密植で管理しています。
ヴェルムでは、樽だけでなく、フードル、ティナハやアンフォラの使用を徹底的に研究して、使い分けている点も見逃せません。
自然条件に委ねるだけでなく、明確な意図をもってチャレンジし続ける。
その結果として、この味わいが生まれたのでしょう。

醸造責任者 Elias Lopez Montero(エリアス・ロペス・モンテロ)氏
登壇した醸造責任者エリアス氏は、華やかな自己演出とは無縁。静かな笑顔の醸造家です。しかし、その穏やかな佇まいとは対照的に、ワインそものものが多くを語ります。
国際的な評価を少しご紹介します。
2018年には英国のワイン誌「Decanter」にて「スペインワインの将来を築く若き醸造家10人」に選出。さらに2021年には「Respected by Gaggenau」において世界最優秀ワイン生産者に選ばれています。
また今年2月のBarcelona Wine Weekでは、マスター・オブ・ワインであるJancis Robinsonが選ぶ「スペインワインの現在と未来を感じる6本」に、フラッグシップのひとつであるLas Tinadas Special Cuveeが選出されました。
このような受賞は、エリアス氏が、“スペインワインの未来像”として提示されたことを意味しています。

ここで、個人的な体験についても触れておきます。
私がエリアス氏のワインに初めて出会ったのは2011年のことです。彼のワインに一目惚れしたスペインワインと食協会 共同代表の郁美さんの紹介でした。

2011年 スペインワインと食協会発足イベントにて
それまでもワインの仕事をしていましたが、スペインワインへの理解は現在ほど深くはありませんでした。けれどもヴェルムのワイン「ブランコ・クパージュ(ソーヴィニヨン・ブランと、ゲヴェルツトラミネール) の味わいがとても印象的で、その魅力は強く記憶に残っています。
頼まれもしないのに、ワイン関係の方々に勝手にお勧めしてしまい、都内の人気イタリアンレストランのシェフソムリエも気に入り、グループに導入されたほどです。
その7年後、2018年にヴェルムが国際的な評価が高まり始めた際には、「やっと、今、きたんだな・・・」と感じたのが正直なところです。しかし本当に素晴らしいと感動したのは、その後のエリアス氏の姿勢でした。世界的な評価に安住することなく、これまでのようにあくまで自らのワインと向き合い続けていたのです。
その積み重ねが、世界でヴェルムファンを増やし続けている秘訣でもあり、毎年、毎年、完成度の高いラインナップへとつながっているのでしょう。

スペインワインと食協会 共同代表 原田郁美さん
今回のセミナーは、ヴェルムの魅力を東京で改めて知ってもらう一つのきっかけになるものでした。テロワール、栽培、そして時間。それらがエリアス氏の哲学とともに、どのように一体となってワインを形作るのかを実感する機会として。そして強く感じたのは、このワインが“いまも選ばれるべき理由”をすべて備えているという点です。

もし、まだこの味わいを体験されていないのであれば、一度は向き合う価値があります。ワインがお好きな方はもちろん、ワインに関わる立場であれば、なおさらです。
見過ごすことはできます。しかし、その選択が後にどのような意味を持つのか、想像することは難しくないはずです。
スペインワインと食協会は、「スペインワインと食文化を囲み、高品質なスペインの魅力を皆さまと体感すること」を原点に、一過性ではないスペインブームを築く活動をしています。今後もスペインワインと食を真ん中に、新しい取組みや情報をご提供して参ります。
スペインワインと食大学運営 スペインワインと食協会(日本事務局/(株)LA PASION加藤 スペインオフィス/原田)
WEB:spainwinefood.org E-MAIL: info@spainwinefood.org

「スペインワインと食」に関する情報を、日本とスペインから、イベントの告知も含めて発信してまいります。最新情報をいち早く知りたい方は、毎週金曜日に配信しているスペインワインと食協会のニュースレター「LOHASPAIN」をご活用いただけたら幸いです。無料登録はこちらから。

Tomoko Kato 加藤智子
Journalist (Spanish Food Culture & Wine) & Editorial Producer
福岡出身のジャーナリスト/スペイン食文化・ワイン専門、編集プロデューサー。料理人、ワイン販売、広報・PRを経て、輸入・販売の(株)LA PASIONを設立し、インポーター業は17年目を迎える。2011年「スペインワインと食協会」を創設し、スペイン食文化とライフスタイルを軸に多くのイベントや講座をプロデュース。ジャーナリストとしてスペイン州政府、企業団体や生産者からの招聘を受け、現地展示会や生産者プレスツアーに参加するほか、取材、イベント企画を行う。協会公式サイトおよびWebマガジン「LOHASPAIN」は編集長として、コンテンツ企画・構成・執筆を手がけ、スペインワインと食文化の魅力を国内外に発信中。GPEスペイン・ワイン・テロワール・ディプロマ、オリーブオイルソムリエ®、Spanish Pantry(ICEX公認)。