The People Behind Spanish Food Culture

スペイン食文化を
つくる人たち

この連載は、スペイン食文化を支える人々との出会いのなかで生まれた、ひとつの言葉や瞬間を記録する試みです。

Record 001 「ガストロノミーを学問分野として確立する」フェランアドリア氏が語った、未来への言葉

Record 001 「ガストロノミーを学問分野として確立する」フェランアドリア氏が語った、未来への言葉

スペイン食文化をつくる人たち。

100人の物語を未来へ。

この連載は、スペイン食文化を支える人々との出会いのなかで生まれた、ひとつの言葉や瞬間をを記録する試みです

 

 

2024年9月2日 東京エディション虎ノ門

 

その言葉に出会った場面

 

2024年9月2日、東京エディション虎ノ門で「ジュヴェ・カンプスとブリぺディアWine SapiensⅢ&Ⅳ Reveal」が開催されました。

スペインの名門ワイナリー「ジュヴェ・カンプス(@juveycamps)」が主催し、世界的に知られるエル・ブリ財団(@elbullifoundation_ferranadria)とともに実現した特別なイベントです。

英語版『WINE SAPIENS III & IV REVEAL』第Ⅲ巻・第Ⅳ巻の日本での発表という節目でもあり、ガストロノミーとワイン文化の未来を考える場となりました。

スペインワインの文化と食文化に関わる知識を未来へどのように繋いでいくのか。
その問いを共有する場面でもあったと思います。

その日、わたしにとってもっとも印象的だったのは、世界トップクラスのシェフ、フェランアドリア氏が語った、この一言です。

「ガストロノミーを学問分野として確立する。」

フェラン氏が目指しているのは、新しい料理を生み出し続けることではありません。

現役時代に積み重ねてきた知識や経験、試行錯誤、そしてガストロノミーという世界そのものを、未来へ受け継ぐための「知」として残すことです。

英語版『WINE SAPIENS III & IV REVEAL』第Ⅲ巻・第Ⅳ巻の出版も、その取り組みのひとつでした。

料理は感性や技術だけで成り立つものではありません。そこには科学、歴史、文化と人の営みがあります。それらを体系的に学び、次の世代へ受け渡していくことが、これからのガストロノミーには必要だという強い意思をわたしは感じました。

「料理をつくる人」を育てるだけではなく、「ガストロノミーを学ぶ人」が育つ社会を目指している。

その言葉から伝わってきたのは、自らの功績を語る姿ではなく、未来へ知を託そうとするひとりの料理人の姿でした。



この言葉を残したい理由

 

今では考えられないと思います。しかしわたしが飲食の世界に入った約30年前には、短大や大学を卒業したあとに飲食業に進むと、「もったいない」と言われることが少なくありませんでした。

「せっかく短大まで出たのに、飲食業なの?」そう耳にしたとき、もしかして胸を張って語れる進路ではないかもしれないと感じた記憶があります。

しかし実際にこの世界に身を置くと、その印象はすぐに覆されました。
なぜなら飲食の世界には、想像を超えるほどの多くの学びがあったからです。

和食、洋食、中華。どのジャンルにも長い歴史と、日々、更新されていく多くの技術がありました。
同時に守られてきた文化も感じることができます。

料理、食材やワインの知識はもちろんのこと、ジャンルごとに変化がある発酵や熟成に関する科学、地域の風土や伝統も理解する必要がありました。さらには経営やサービスまで、学ぶことにゴールがありません。

料理人も、ソムリエも、生産者も、誰もが学び続けています。

こんなにも奥深い世界なのに、当時は「学問」として語られた覚えはありませんでした。けれど、いま経って振り返ってみても、当時の経験が無駄になったことなど一つもありません。
だからこそフェラン氏が語った「ガストロノミーを学問分野として確立する」という言葉。それはわたしには特別な意味をもちました。
ひとりの料理人の理想ではなく、まさに食の世界そのものの価値を社会に問い直す宣言のように聞こえたからです。

食は、生きていくためになくてはならないもの。

しかも食とは、人を楽しませる仕事であると同時に、文化を育み、未来へ受け継ぐ営みでもあると思います。学問として認められ、さらに研究され、次の世代へと受け継がれていく社会が実現するなら、これから食の世界を志す人たちは、これまで以上に自分の道に誇りをもてるはずです。

いま、この世界を支える現役の方々はもちろん、これから目指す方々に届いてほしい。
心からそう思う言葉です。

だからわたしは、この言葉を記録しておきたいと思いました。

 

最後に残す言葉

「ガストロノミーを学問分野として確立する」





 

 

 


Ikumi Harada

Tomoko Kato 加藤智子

スペイン食文化の記録者 / スペインワインと食協会 共同代表 

スペイン食文化に関わる活動を通じ、生産者、料理人、ワイナリー、オリーブオイル生産者など、食の未来をつくる人々との出会いを重ねてきた。とくにスペインワインやオリーブオイルがもつ土地、歴史、生産者の哲学に向き合い、その背景にある物語を日本へ伝える活動にも取り組んでいる。現地で出会った人々の言葉、その仕事への情熱、そして食文化を支える思想を記録し、未来へ残すことを目指している。GPEスペイン・ワイン・テロワール・ディプロマSpanish Wine Specialist(ICEX公認)、Spanish Pantry(ICEX公認)、オリーブオイルソムリエ®

@ tomoko_kato_lapasion