本連載 “Spanish Lifestyle“では、
筆者がジャーナリスト兼学び手として
スペインのワインとガストロノミー界の権威である
フアン・ムニョス先生に同行し、学びの旅へ出かけます。
スペイン流のライフスタイルが
あなたの人生をより豊かに彩るレシピとなりますように—。
さあ、一緒にスペインの旅にでかけましょう。

スペインワインの魅力を紡ぐ『VILA VINITECA』キム・ビラの情熱と哲学

スペインで最も有名なワインショップ『VILA VINITECA』
キム・ビラ氏 独占取材

スペインを代表するカリスマワインショップ「VILA VINITECA(ビラ・ビニテカ)」のCoオーナー、キム・ビラ氏に、フアン先生と一緒にお話を伺う機会に恵まれました。

ビラ・ビニテカ」は、バルセロナのエル・ボルン地区にある、こだわりのワインショップとしてワイン愛好家の間で広く知られていますが、その活動は小売業にとどまらず、ワインの卸売業や輸出入業にも展開しています。スペイン各地の著名なワイン生産者と提携し、いくつかのブドウ栽培プロジェクトを手掛け、ワイン造りにも携わっています。

ディストリビューターとして、350以上のワイナリーと独占契約を結び、世界中から10,500種類以上のワインとスピリッツを取り扱うヨーロッパ有数の企業に成長。ワインだけでなく、熟成を重ねた400種類以上のチーズ、最高級のハモン、厳選されたグルメ食品の品揃えは、スペインのワイン業界やガストロノミー業界において大きな影響力を誇ります。



VILA VINITECA-La Teca」に吊るされたバナナとキム・ビラ氏

ビラ・ビニテカ」の起源は1932年にさかのぼり、バルセロナのボルン地区で創業された「コルマド・ビラ(Vila食料品店)」にあります。当初から、近隣のレストランへワインやリキュールのケースを販売しており、ビラ家の事業は代々受け継がれてきました。現在、ビラ家の4代目であるキム・ビラ氏がその経営を担い、家業を次々と大きくしてきた軌跡は、まさに家族経営の成功例と言えるでしょう。ビラ氏のお話を伺っていると、5人兄弟の中で姉がチーズを担当するなど、それぞれが役割を担いながら家業を守り続けてきた姿が印象的でした。

創業当初の「コルマド・ビラ」は、現在「VILA VINITECA-La Teca」として、厳選された生ハムやチーズ、グルメ食材を取り扱うデリカテッセンとして進化し、ワインと共に楽しめるバル空間も併設されています。店の前に吊るされたバナナについて尋ねると、創業当初からカナリア諸島から届いたバナナを吊り下げて販売していたそうです。ビラ氏は、このバナナを先祖へのオマージュとして今も欠かさず吊り下げていると語り、家族の歴史を大切にするその思いに、心が温まりました。

その小道を挟んだ向かい側には、専門的なワインセレクションを取り揃えた「VILA VINITECA」があり、ワインとグルメの両方を楽しめる魅力的なエリアとなっています。


「VILA VINITECA」にて、左からフアン先生、筆者、キム・ビラ氏

「VILA VINITECA」では、スペイン全土から厳選されたワインに加え、ブルゴーニュやシャンパーニュをはじめとする欧州の名門ワインも取り揃えています。希少なビンテージや限定版のワインも豊富で、ワイン愛好家やコレクターにとって魅力的な選択肢が揃っています。


Vila Viniteca | Les Corts(バルセロナ L'illa Diagonal店)

D.O. ビノス・デ・マドリード)」の白ワイン(アルビージョ・レアル種)と赤ワイン(ガルナッチャ種)で楽しむひととき。このワインは、ワイナリーとのコラボレーションで「ウバス・フェリセス(ビラ・ビニテカ)」が手掛けたシリーズの一つ。 ”カタルーニャの最高の朝食”を堪能しながら、キム・ビラ氏にさまざまなお話を伺うことができました。

チーズと白ワインを味わいながら、「最近は白やロゼが人気では?」と尋ねると、「たしかにグローバルにはそうした流れがありますが、当店では赤ワインの割合が高いんです」とキム・ビラ氏。

実際、「ビラ・ビニテカ」の売上ランキングでは、リベラ・デル・デュエロ、リオハ、プリオラートといった銘醸地の赤ワインが上位を占め、白のルエダは4位に続きます。
これは、高級な赤ワインの方がボトル単価が高い傾向にあること、そして「ビラ・ビニテカ」が高級レストランへの卸しを多く手がけ、上質なワインを求める優良顧客層を持っていることの現れとも言えそうです。


スペインワインを広めるためには、どうすればよいとお考えですか?

との問いに、キム・ビラ氏は即座に答えました。

レストランは、その国の文化を伝える親善大使です。スペインのレストランは、もっと世界に出ていくべきだと思います。

確かに、世界中の高級ホテルやクルーズ船では、フレンチやイタリアンレストランが定番で、ギリシャ料理さえ見かけることがありますが、スペインレストランはごくわずかです。イタリアンレストランが世界中に広がっているのは、料理そのものの人気だけでなく、レストランが多くの国に存在することで、イタリアの食材や製品—例えばチーズやオリーブオイル、ハム、ワイン—も自然に広がるからです。これにより、イタリアの食文化全体が認知され、食材やワインへの需要が高まり、商品の認知度がさらに向上するという好循環が生まれます。

ビラ氏は、フランスやイタリアが積極的に海外展開をしている一方で、スペイン人が自国にとどまる傾向が強いため、世界展開が進んでいないと分析します。「Disfrutar」や「El Celler de Can Roca」など、”世界のベストレストラン50”のTOPに名を連ねる名店がスペインには多数ありますが、海外進出を果たしているスペインレストランはほとんどありません。

ビラ氏は「味わいだけでなく、ワインも含めた文化としてのスペイン料理の素晴らしさを、もっと世界に伝えていくべきだ」と強調します。この言葉には説得力があり、スペイン料理とワインの素晴らしさを広めるために、レストランの役割が非常に重要であることが理解できます。

ビラ・ビニテカ」は、ワイン文化の普及と啓蒙を使命の一つとして掲げ、バルセロナのOutlook Wineと提携した奨学金制度に基づく教育支援プログラムや多彩なテイスティングプログラムを展開しています。また、elBulli Foundationと連携し、ワインの本質とそのガストロノミーにおける役割を体系的にまとめた『Sapiens del Vino』の制作にも関わるなど、スペインワインと食文化の発信に力を注いでいます。


写真提供 スペインワインと食協会


私たちスペインワインと食協会も、2011年の設立以来、上質なスペインワインとガストロノミーを日本で広く知っていただくため、一過性でない継続的なブームを目指して活動を続けてきました。お話を通じて、スペインワインの未来をさらに拓くためには、スペインレストランを応援することが鍵であると改めて確信しました。

今回、「Vila Viniteca」バルセロナ本店、ワインバー「La Vinya del Senyor」、そしてILLAモール内の店舗を訪れ、キム・ビラ氏のワインやチーズへの深いこだわりが随所に感じられました。その情熱は形となり、訪れる人々に自然に伝わり、「Vila Viniteca」を中心に多くの熱心なファンに囲まれ、長年愛され続けていることが実感できました。ビラ氏の温かなまなざしとチャーミングな人柄が、スタッフやお客様との関係にも表れており、その魅力がさらに広がっています。

1932年に創業し、あと7年で100周年を迎える「Vila Viniteca」。その節目に向けて、ビラ氏は「盛大なパーティーを開くよ!ぜひ来てね!」と嬉しそうに語っていました。これからも「Vila Viniteca」の進化を見守り、応援し続けたいと思います。

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Vila Viniteca(ワイン専門店) & Vila Viniteca - La Teca(デリカテッセン)
住所: Carrer dels Agullers, 7 & 9 08003 Barcelona, Spain

Vila Viniteca | Les Corts(バルセロナ L'illa Diagonal店)
住所: Avinguda Diagonal, 557, 08029 Barcelona, Spain
@vilaviniteca


フアン先生オススメのワイン

EL PERRO VERDE –フルーティーな優雅さと多彩な魅力

ある国際的なワイン評論家は、このワインをスペイン国内で最も重要なべルデホ(Uva Verdejo)およびルエダ(DO Rueda)ワインのひとつとして評価しました。

EL PERRO VERDE(エル・ペロ・ベルデ:緑の犬) は、非常にフルーティで生き生きとしたワインで、特にフェンネルの香りが特徴的で、トロピカルフルーツ、例えばライチや地中海のハーブが調和しています。口に含むと、フレッシュで包み込むような感覚が広がり、しっかりとしたボディと長い余韻を楽しめます。「ほとんど全てを持っている」と表現するにふさわしいワインです。

しかし、『エクレクティック(融合的)』と言えるのでしょうか?その答えは『はい』です。なぜなら、興味深いワインやその土地に根ざしたワインは、ここで言う『パラモ・カステジャーノ(カスティーリャの高原)』の気候や石の多い土壌の影響を受け、その土地ならではの個性を表現しています。エル・ペロ・ベルデ は、その個性がさらに引き立っており、デザインや複雑さにも独自の特徴が感じられます。エル・ペロ・ベルデ の周りには、どこか魅力的でミステリアスな雰囲気が漂っており、このワインは時間を超えた存在です。広口のグラスで冷やして飲むことで、その香りをより一層楽しむことができます。

料理との相性について言えば、例えばアボカドと茹でたエビ、DOフエンテス・デ・エブロの甘い玉ねぎ、ピクアル種のエクストラ・バージン・オリーブオイル、そしてフレーク塩を使った一皿が理想的です。これを楽しんでください。

また、サルディナ(イワシ)のエスカベッシュ(12世紀のペルシャ起源の料理)とも素晴らしく合います。もし肉料理を選ぶなら、ウサギのエスカベッシュもおすすめです。

SALUD Y AMOR…..MUCHO AMOR
フアン・ムニョス – あなたのソムリエ

 

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Spanish Lifestyle:最高の人生を叶えるスペイン流レシピ
第三回目は、「VILA VINITECA」キム・ビラ氏とのインタビューを通じて、
氏がスペインワイン業界に与えた影響の大きさを改めて実感しました。
高品質なスペインワインの普及に尽力し、業界を牽引してきた先駆者としての
功績は計り知れません。その上で、フランスワインの普及にも尽力し、
両国のワイン文化を豊かにしてきたキム・ビラ氏の姿勢に、
深い敬意を表します。氏とフアン先生は1981年からの長い親交を持ち、
共に「フランス農事功労賞」を受賞したこともその証です。


フランス共和国農事功労勲章(メダリャ・アル・メリト・アグリコラ)」を
受賞したキム・ビラ氏、メイ・ホフマン氏、そしてフアン・ムニョス先生


Spanish Lifestyle」では、スペインのワインや食文化、
伝統を守りながら広めていくために、今後も、取材やインタビュー、
フアン先生の深い洞察から学びを得ながら、
おすすめのスペインレストランやバル、
ワインの情報をお届けしてまいります。次回もどうぞお楽しみに。

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Ikumi Harada
Journalist & Creative Director 

スペインワインとガストロノミー専門ジャーナリスト

大学卒業後、広告代理店でデザイナーとして、クリエイティブな視点と戦略的思考を培う。
2005年から留学を機にスペイン食文化に魅了され、その研究に人生を捧げる。2009年から日本・アジア市場でスペインワインの輸出とプロモーションに従事。2011年に「スペインワインと食協会(AGE)」を創設し、クリエイティブディレクションや執筆を通じてスペイン食文化の普及と市場拡大に寄与している。2012年、プリオラートでワイン造りを始め、2024年に自らの初ヴィンテージをリリース。2025年より、フアン・ムニョス氏と共同企画「Spanish Lifestyle」連載開始。WSET ® Level 3, Spanish Wine SpecialistICEX認定)山口県出身。