スペインの長く美味しいクリスマス
美食と伝統が織りなす、幸福な冬の風習
La gastronomía y la tradición tejen una larga y feliz Navidad en España.
スペインの学校は冬休みに突入。多くの企業はお休みモードに入り、レスポンスが鈍るこの季節。
12月24日のクリスマス・イヴ(Noche Buena)から始まるスペインの長いクリスマスは、新年をまたいで、1月6日の東方三賢者の日(Día de los Reyes Magos)まで続きます。日本のようにクリスマスの後、お正月ムードに一変、という慌ただしさはなく、街のクリスマスイルミネーションをはじめとしたクリスマスムードはお正月を過ぎても続きます。
バルセロナの街のクリスマスネオンに溶け込む、アントニ・ガウディの
建築カサ・バトリョ(カタルーニャ語:Casa Batlló)世界遺産
ガウディ作サグラダ・ファミリア聖家族教会
(写真は2023年12月24日撮影。休日祝日はマーケットがお休みの可能性もあります)
スペインのクリスマス料理〈カタルーニャ地方〉
・12月24日 クリスマス・イヴ
Nochebuena(スペイン語) / Nit de Nadal(カタルーニャ語)
カタルーニャ地方では、スペインの他の地方とは異なり、この日は家族一同集まるクリスマ・イヴのディナーはありません。そのかわり、というわけではありませんが、独特な風習があります。クリスマスが近づくと子供のいる家庭のサロンには、サンタのような赤い帽子をかぶり笑みを浮かべた丸太人形(ティオ・デ・ナダル/Tió de Nadal)が出現します。その丸太の人形は、通称「カガティオ」と呼ばれ、”排便する丸太”という意味があります。
世界遺産、リュイス・ドメネク・イ・ムンタネーの建築サン・パウ病院
(Hospital de Sant Pau)の巨大なカガティオ。暗闇に浮かぶアンニュイな顔に釘付けに。
クリスマス・イブに、子どもたちは「カガティオ〜♪」と丸太人形を棒でたたきながら謳い、マントをめくると、なんと「カガティオ」のお尻のあたりにお菓子やキャンディのプレゼントが!子供たちにとって、最初のクリスマスプレゼントです。
グローバル化の影響もあり、12月24日の夜、サンタクロース(カタルーニャ語:Pare Noel)人気が高まっているとか。というのも、1月6日の東方の三賢者の日 (ディア・デ・ロス・レジェス)の夜、東方の三賢者たちがプレゼントを持ってくるのがスペインの伝統なのですが、冬休み中に子どもたちがオモチャで遊べるように、12月25日に渡すケースが増えてきているそうです。
・12月25日 クリスマス
Navidad/Nadal
家族一同集まって、家でクリスマスランチをいただきます。乾杯はワインで。
日本のクリスマスは恋人と過ごすロマンチックな日、というイメージですが、スペインのクリスマスはみんな家族と家で過ごします。数年前までは、バルセロナのような都会でも、休業のお店が多く、街中はコーヒーを飲むのも難しいほど閑散とした雰囲気に包まれていたものですが、近年では、観光スポットには外国人の行列ができ、レストランでクリスマスコースを食べる地元の人たちも増えているようで、時代の移り変わりを感じます。
【前菜(Aperitivo/Aperitiu)】
ボガバンテ(オマール海老)、アングーラ(うなぎの稚魚)などの高級食材をはじめ、フォアグラやサーモンのカナッペ、定番のハモン・イベリコ(生ハム)や、ロンガニサやチョリソなどの腸詰め、ムール貝、エビなどが食卓に並びます。
【一皿目(Primer plato/Primer plat)】
カタルーニャのクリスマス料理といえば、エスクデーリャ・イ・カルン・ダリャ(Escudella i carn d'olla) 。
4種類の肉 (豚、牛、鶏肉、子羊)と7種類の野菜を入れて煮込んだエスクデーリャのスープに、ピロータ(ミートボール))やガレッツ(貝の形のショートパスタ)をたっぷり入れていただきます。体の芯から温まるカタルーニャの冬の定番スープです。
【ニ皿目(Segundo plato /Segon plat)】
鶏や七面鳥、鴨、子羊などの肉料理か、魚介料理。
【デザート(Postre /Postres)】
伝説となったレストラン「エル・ブジ」のフェラン・アドリアの弟で、「ENIGMA(エニグマ)」のアルベルト・アドリア(Albert Adrià)や、「Escribà(エスクリバ)」のクリスティアン・エスクリバ(Christian Escribá)などの有名シェフやパティシエと、大手トゥロンメーカーとのコラボにより、スペインならではのガストロノミックな味わいも楽しめるようになったヌガー菓子トゥロン(Turrón)や、ほろほろ崩れる触感が癖になるアンダルシア発祥のアーモンドクッキー・ポルボロン(Polvoron)などのスィーツを、CAVAなどのスパークリングワインといただきます。
・12月26日 サン・エステバンの日(カタルーニャの祝日)
Día de San Esteban / Diada de Sant Esteve
家族一同集まって、クリスマス翌日のランチも共に食卓を囲みます。乾杯はワインで。
カタルーニャ地方では、クリスマス翌日の12月26日もサン・エステバンの日で祝日なので、クリスマスにつくったスープ「エスクデーリャ」の余った具をひき肉にして、カネロニ(カタルーニャ語でカネロンスCanelons)の具にして食べるという風習があります。
この日ももちろん、アペリティフからデザートまで、フルコースでいただきます。
・12月31日 大晦日
Nochevieja/Nit de cap d'any
友人同士でレストランに集まったり、ホームパーティーが開催されます。カウントダウンを待ちながら夕食を食べ、午前0時の12の鐘の音に合わせて、12粒のぶどうを食べます。鐘の音に合わせると、ぶどうの粒を飲み込む前に次の鐘が鳴るので、12の鐘が終わる頃には、口の中はぶどうの実で一杯になり、12の鐘がなり終わる記念すべき瞬間に、誰もが無言のままでとりあえずCAVAやスパークリングワインで乾杯、というシュールな年越しを迎えます。
スペイン各地で盛大なカウントダウンイベントが開催され、花火が上がり、深夜まで飲んで踊って食べて、新年を祝います。
・1月1日 新年
Año Nuevo / Cap d'any
多くのスペイン人は、大晦日に遅くまで飲んで食べてお祝いするので、日本流に初日の出を見に行くというと、かなり引かれます。お昼に、家族一同でで食卓を囲んだり、良いレストランで特別メニューを食べるなど、それぞれです。クリスマスの食べ疲れがでてくるのも、ちょうどこの頃。
・1月6日 東方の三賢者の日 (ディア・デ・ロス・レジェス)
Dia de los Reyes Magos / Dia dels Reis Mags
新約聖書に描かれる東方の三賢者、メルキオール、カスパール、バルタザール。東方の三賢者は、キリストの誕生を知り、星に導かれ、ラクダに乗り、黄金、乳香、没薬の贈り物を持ち、イエス・キリストを礼拝したといわれています。
東方の三賢者の日 (ディア・デ・ロス・レジェス)に、再び家族一同集結し、前菜からワインと共にランチをいただきます。この日の主役はデザートで、王冠の形をした菓子パン「ロスコン デ レジェス(Roscón de Reyes)」。
ロスコン・デ・レジェスの中には、陶器またはプラスチック製の様々な小さな人形が入っていて、それを当てた人は、その日王様になれます。反対に、豆を当てた人はロスコン・デ・レジェスの代金を払わなければなりません。
美食と伝統が織りなす、スペインの長いクリスマスと
家族の絆
スペイン、カタルーニャ地方のクリスマス料理と風習をまとめましたが、この長い2週間のクリスマス期間は、とにかく親戚も含めた大家族で何度も集まり、食卓を囲みます。バスク人気の影響もあり、「スペイン=美食の国」という認識が、日本でも知られてきたと、最近帰国の度に感じるようになりました。世界最高峰と謳われるレストランを輩出し、ガストロノミーのレベルも高いスペインですが、実は家庭料理のレベルも驚くほど高いです。海と山、太陽に恵まれたスペインの豊かな食材と、マドレ(母)の愛情タップリの絶品料理と長いクリスマスが、スペイン人の家族の絆をより強めているのは間違いありません。それでは素敵なクリスマスをお過ごしください!
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Ikumi Harada
Art director
大学卒業後、広告代理店でデザイナーとして勤務後バルセロナへ。スペインワインに恋をして、気がつけばスペイン在住歴トータル13年に。ライフワークは「日本とスペインを繋ぐ架け橋」。大好きなテーマはスペインワインと健康。イヌ好き。WSET ® Level 3、Spanish Specialist、スペインワインと食協会・共同代表。山口県出身。