広告会社の営業時代から、輸入したいと思うものを探していた
鳥井さんは、32年のあいだ広告業界で活躍してきました。ただ「自分が本当に売りたい!」と思う商材ばかりではなかったことから、将来的に自分がいいと思うものだけをブランディングして売ってみたいという気持ちが生まれたそうです。
「何か面白い味わいはないか?」と、アンテナをはっていました。
たとえば上海赴任のとき、世界三大紅茶と言われているキーマン紅茶に出会えたエピソードがあります。日本ではあまり知られておらず、鳥井さんはチャンスかもしれないと感じました。すぐに輸入を検討します。しかし実施に生産地の視察などを通して、越えるべきハードルが多いと感じ、ビジネスには至りませんでした。
運命を変えたエキストラバージン・オリーブオイルとの出会い
2019年、ドイツ出張の帰りの飛行機で事件は起こりました。
偶然、ビジネスクラスにアップグレードされ、機内食にでてきた小瓶のオイル。味わってみると、これまでたべてきた味わいと、ぜんぜん違います。あまりにも驚いた鳥井さんは、帰国次第に成城石井とカルディで、一番高いものを買ってみます。けれども似ても似つかない味わいばかり。
「あの味わいは、どこにあるの?」そこから鳥井さんのエキストラバージン・オリーブオイル探しが始まりました。
オーガニックは大前提
仕事で海外を行き来するうちに、本場のオーガニック食材を知ります。そこから持続可能な農業をすることに興味が湧き、日本での有機JAS認証機関にも所属しました。
鳥井さんは、自分でワインの葡萄をつくりたいし、野菜もつくりたい。オリーブオイルだって自分でつくるしかないと思っていたそうです。
その矢先、機内で味わったときのような忘れられないオリーブオイルに出会います。今度は「スペイン産エキストラバージン・オリーブオイル」です。すぐにスペインの生産者に会いに行き、オリーブ畑や搾油所も見学しました。輸入を決意したのは、その味わい、そして持続可能な循環型農園で栽培されるオリーブオイルだったからでした。
個性が光る、それぞれの生産者
エキストラバージン・オリーブオイル CUAC(クアック)
アヒルのボトルに入ったCUAC(クアック)。キャッチーなビジュアルが目をひきます。さらに驚かれるのが味わいです。「実にフレッシュで際立った香り、マイルドで食べやすいんです。100mlサイズは、オイルに親しみがない方にもトライアルしやすいサイズ感で、プレゼントにもすごく好評です。」と、鳥井さん。
本当はオーガニックではないノーマルのピクアルなど他にも2品種あります。生産者はすべておすすめしてくれますが、鳥井さんはオーガニックのオイルだけを輸入しています。
ちなみにアヒルのボトルは、生産者ラケルと親交のあるスペインの著名パッケージデザイナー、イザベル・カベージョのデザインです。2018年には、Pentawardsというパッケージデザインの世界のコンテストにおいて金賞を受賞しています。
Olioli(オリオリ)
「Olioli(オリオリ)は、すべてオーガニック認証をもらっていて、サスティナブルなつくりをするのに一番自信がありそうだったんです。とくに高密度栽培でやっていることに惹かれましたね。全て自分のコントロール下にあることが大切かなと思いました。生産者のゴンサロが研究熱心で、栽培からボトリングまでやっているんです。出荷はお母さんで、お父さんはバレンシアのお医者さん。うちと同じく家族経営です。」と、鳥井さん。
鳥井さんは、日本でオイルをつくりたい気持ちがあるからこそ、高密度栽培のオリーブ畑に惹かれたそうです。日本でオリーブを育てるにはこれしかない!と考えていたから。
ゴンサロにオリーブの品種ごとにロット違いのものなども送ってもらい、鳥井さんの中で販売したいと思う順位をつけます。さらに現地のオリーブオイルソムリエと相談しながら最終的に納得のいくものを輸入するほどのこだわりようです。
LivesOlives(リベスオリベス)
LivesOlives(リベスオリベス)も職人気質。かなりの個性派です。スペインには500mlしかなく、日本上陸のために250mlをつくってくれました。
EUオーガニック認証のはちみつ
Muria(ムリア)
オーガニック蜂蜜(非加熱タイプ)のMuria(ムリア)は、6代続く養蜂家が手がけています。経験をつみかさねて200年以上にわたり継続し、伝統的な方法を大切にしている生産者です。
彼らは蜂のために最適な土地を選んで移動します。常に蜂と巣の状態を健全に保つことに全力を注いでいるからです。生産者の想いと、個性が溢れバラエティに富んだはちみつの味わいを知り、鳥井さんと奥さまの美佐子さんが輸入を決めました。なにより彼らが蜂へ敬意を払う姿勢がとても伝わってくるのだそうです。
非加熱の蜂蜜は、精製していません。加熱や精製で失われるはずのミネラルやビタミンなどの成分がそのままあります。自然なものは、その証として結晶化していたり、色合いが違ったりします。工業製品のように同じ色や状態が揃うこともないのです。
美佐子さんがはちみつを好きになったきっかけは、鳥井さんのマレーシア出張のお土産で真っ黒なワイルドハニーを食べてから。
「いろいろなはちみつを食べていて、スペインのはちみつに出会いました。これだ!とすぐに輸入することを決めたのですが、大変なこともあって」と美佐子さんが教えてくれたのは日本に入荷する手続きのことです。
オーガニックで非加熱のはちみつは、その他のはちみつより、輸入時の通関において成分の証明等、細かいチェックが入ります。スペインと日本の検査基準が違うため、成分等をしっかりと説明できないと、商品が出てくるまでに1ヶ月くらいかかることもあったそうです。その経験から、フォワーダーに丸投げするのではなく、美佐子さんが現場にいくようになり、今では半日で終わることも。通関は「税関の質問に即答できるよう事前準備し、現場ですぐに対応できることが大事だと学びました。」と、美佐子さん。
第二の人生は、家族みんなで
Olive Bird(オリーブバード)では、鳥井さんが考えたロゴを使い、商品の写真を撮って、パワーポイントにコピーを書くそうです。そして大学生の息子さんに伝えるとwebをアップしてくれると、鳥井さんは嬉しそうに教えてくれました。
週末には、オリーブソムリエでもある美佐子さんと鳥井さんが、お二人でさまざまなマルシェの店頭に立ちます。
「いざ自分がするとなると、やりたいことが止まらないんです!」 鳥井さんのチャレンジは続く。
今年8月には、山梨県に直営店の清里ホースブリッジ店をオープンされました。どこかにお店を持ちたいと思っていた矢先、不思議なご縁がかさなったというから素敵です。
すでに3年ほど前から、農家での研修などを通じ勉強してきた農薬と化学肥料不使用の果樹や野菜作りにもチャレンジされています。
その上で運命的な出会いから始まった、スペイン産オリーブオイルの輸入を手がけています。
「うまくいくかわからないけど、やるしかないからやってますけど・・・。
会社勤めをしてきて、会社員が大変なのもわかっていたし。これから何歳まで生きるかわかりませんけど。まぁお金がそんなになくても、好きなことやって、時間がある程度あって。どうなるかわかりませんけど、ヒロ(ご主人)はどんどん自由にやってますけど・・・」と、美佐子さん。
美佐子さんが、エネルギッシュな鳥井さんの夢をいっしょに体験していくスタンスがとても伝わってきます。
鳥井さんが、機内でオイルに偶然出会ったあの日から、確実におふたりの人生を変えるきっかけになったのは、スペイン産オリーブオイルです。
ご自身でつくるしかないと思っていたオリーブオイルを「これなら輸入したい!」と思える味わいに出会えたことも奇跡だと思います。
鳥井さんと美佐子さんが手がけた野菜や果樹は、私も待ち遠しいです。きっと鳥井さんのオリーブオイルと相性抜群だと想像できるからです。出来上がったら皆さんにもお知らせします。その前にまずは鳥井さんと美佐子さんのおかげで日本で味わうことができるオリーブオイルとはちみつを、ぜひ手にとってみてください。この冬のパーティーシーズンにも注目されそうですね。素敵な味わいでキャッチーなビジュアルは、映えるからプレゼントに選んだらきっと喜ばれます!
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Tomoko Kato
Editor-in-chief
短大卒業後、パティシエをスタートして食の世界一筋25年。スペイン産オリーブオイルに一目惚れし、輸入して13年。好きなものは、ワインとドラマと読書。3児の子育てと仕事に奮闘中。調理師、オリーブオイルソムリエ、スペインワインと食協会・共同代表。福岡県出身。